アシックス(7936)はどこまで駆け上がるか?『虎』と『技術』で世界を制す、黄金時代の徹底検証

はじめに:アシックスは、なぜ今「最高の輝き」を放っているのか

かつて、アシックスのシューズにどのようなイメージをお持ちでしたか? 「部活で履いた、真面目な靴」 「機能は良いけど、少し野暮ったい」 「お父さんが履くランニングシューズ」

もし、今でもあなたがそのような印象を抱いているとしたら、その認識を根本からアップデートする必要があります。2020年代に入り、アシックスは劇的な変貌を遂げました。かつての「地味で真面目な優等生」は、今や**「世界のアスリートとファッショニスタを同時に魅了する、高収益グローバル企業」**へと華麗なる転身を遂げたのです。

その証拠に、業績と株価は驚異的な伸びを示しています。売上・利益は過去最高を更新し続け、株価は上場来高値を突き抜け、まさに青天井の快進撃を見せています。

しかし、賢明な投資家である皆様は、こう思うはずです。 「この熱狂は本物なのか?一過性のブームではないのか?」 「なぜ、アシックスはナイキやアディダスといった巨人たちを相手に、これほどの成功を収めることができたのか?」 「そして何より、この高値圏からでも、まだ投資する価値はあるのか?」

本記事は、その全ての問いに答えるために存在します。約2万字という圧倒的な情報量と、プロのアナリストとしての冷徹な視点をもって、アシックスという企業の「今」を徹底的に解剖し、その強さの本質と未来の成長可能性、そして潜在的なリスクを白日の下に晒します。

この記事を読み終える頃、あなたはアシックスの復活が、決して偶然や幸運によるものではなく、**「技術」「ブランド」**という両輪を再発明した、必然の帰結であることを理解するでしょう。そして、この黄金時代がまだ序章に過ぎない可能性に気づき、自信を持って投資判断を下せるようになっているはずです。

それでは、世界を駆け抜けるアシックスの軌跡と、その未来を巡る壮大な旅にご案内します。

企業概要:”健全なる精神”を宿す、日本のグローバルブランド

アシックスの「今」を理解するには、まずその哲学と歴史を知る必要があります。

設立と沿革:鬼塚喜八郎の志から始まった物語

アシックスのルーツは、終戦間もない1949年、創業者の鬼塚喜八郎が神戸で設立した鬼塚商会にあります。彼の情熱は、スポーツを通じて青少年の健全な育成に貢献したい、という一点にありました。この創業の精神こそが、アシックスの全ての事業活動の根幹を成しています。

  • 1949年: 鬼塚商会を設立。バスケットボールシューズの製造を開始。

  • 1964年: 東京オリンピックで、アシックスシューズを履いた選手たちが活躍。

  • 1977年: 鬼塚株式会社、株式会社ジィティオ、ジェレンク株式会社の3社が対等合併し、総合スポーツ用品メーカー「株式会社アシックス」が誕生。

  • 社名の由来: 古代ローマの詩人ユウェナリスが残した「Anima Sana In Corpore Sano(もし神に祈るならば、健全なる精神が健全なる身体に宿ることを祈るべきだ)」という言葉の頭文字をとって、ASICSと名付けられました。この創業哲学は、今もなお同社の製品開発と企業活動の隅々にまで息づいています。

  • 1990年代以降: 衝撃緩衝材「GEL」を搭載したシューズが世界的なヒットとなり、ランニングシューズブランドとしての地位を確立。

  • 2002年: ファッションブランドとしての「オニツカタイガー」を復活させ、新たな成長の種を蒔く。

  • 2020年代: 長年の研究開発とブランド改革が結実し、歴史的な高成長期に突入。

鬼塚氏の抱いた一つの志が、今や世界100カ国以上で事業を展開するグローバル企業へと成長したのです。

事業内容:4つのカテゴリーで世界と戦う

アシックスの事業は、主に4つのカテゴリーに分類されます。このポートフォリオが、現在の好調な業績を支えています。

  • 1. P/L(パフォーマンスランニング): アシックスの中核であり、最大の収益源。市民ランナーからトップアスリートまで、あらゆるレベルのランナーに向けた高機能ランニングシューズを展開。後述する「METASPEED」シリーズの成功により、ブランドイメージと収益性を劇的に向上させました。

  • 2. C/P(コアパフォーマンススポーツ): ランニング以外の競技スポーツ分野。テニス、バレーボール、卓球、野球、ラグビーなど、様々な競技用のシューズやアパレルを提供。各競技で高いシェアとブランド力を誇り、安定した収益基盤となっています。

  • 3. S/L(スポーツライフスタイル): 日常的に着用するスニーカーやアパレルを展開。このカテゴリーの成長を牽引するのが、**「Onitsuka Tiger(オニツカタイガー)」**です。日本の伝統とモダンなデザインを融合させたブランドとして、世界中のファッションシーンで絶大な人気を誇ります。また、「ASICS SportStyle」ブランドも、機能性とデザイン性を両立させたスニーカーとして若者を中心に支持を広げています。

  • 4. A/P(アパレル・用具): 各競技用のアパレルやアクセサリー、用具などを展開しています。

近年のアシックスの快進撃は、**「P/L(パフォーマンスランニング)」「S/L(オニツカタイガー)」**という2つの強力なエンジンが、全速力で回転していることによってもたらされているのです。

ビジネスモデルの詳細分析:アシックスは「最強の復活」をどう成し遂げたのか

数年前まで収益的に伸び悩んでいたアシックスが、なぜV字回復を遂げ、過去最高の業績を叩き出すに至ったのか。そのビジネスモデルの変革にこそ、強さの秘密が隠されています。

収益構造:高付加価値化とDTCシフトによる利益率の劇的改善

アシックスの復活劇は、PL(損益計算書)を見れば一目瞭然です。かつて5%前後で低迷していた営業利益率が、直近では11%を超える水準にまで劇的に改善しました。この背景には、2つの大きな構造転換があります。

  • 1. 高価格・高付加価値製品へのシフト: アシックスは、安売り競争から脱却し、「価値」で選ばれるブランドへと舵を切りました。

    • ランニング分野: 1足3万円近い価格帯のトップモデル「METASPEED」シリーズが、記録を狙うシリアスランナーの間で爆発的にヒット。これにより、製品単価(ASP)が大幅に上昇し、収益性が向上しました。

    • オニツカタイガー分野: 「NIPPON MADE」シリーズに代表される高品質・高価格帯の製品が、ファッション感度の高い層に支持され、ラグジュアリーブランドに近いポジションを確立。ブランド価値の向上に大きく貢献しました。

  • 2. DTC(Direct to Consumer)比率の向上: 従来の卸売中心のビジネスから、自社のECサイトや直営店で直接消費者に販売するDTCモデルへと大きくシフトしました。

    • メリット① 利益率の向上: 中間に卸売業者を介さないため、販売マージンが大きくなり、収益性が改善します。

    • メリット② 顧客データの活用: 誰が、何を、いつ、どこで買ったかという貴重な顧客データを直接収集できます。このデータを製品開発やマーケティングに活用することで、顧客ニーズに即した商品・サービスを迅速に提供できるようになります。

    • メリット③ ブランド体験の提供: 直営店は、単なる販売の場ではなく、ブランドの世界観を伝え、顧客との繋がりを深める重要な拠点となります。

この「高付加価値化」と「DTCシフト」という両輪が、アシックスを儲かる体質へと生まれ変わらせたのです。

競合優位性:「機能的価値」と「情緒的価値」の二刀流

スポーツ用品市場は、ナイキ、アディダスという2大巨頭に加え、HOKA(デッカーズ社)やニューバランスといった強力な競合がひしめくレッドオーシャンです。その中で、アシックスは独自の強みを発揮しています。

  • 1.【機能的価値】アシックススポーツ工学研究所が生み出す圧倒的な技術力: アシックスの競争力の源泉は、神戸市にある**「アシックススポーツ工学研究所」です。ここでは、30年以上にわたり、人間の足の動きや身体のメカニズムを科学的に分析し、その膨大なデータを製品開発に活かしてきました。衝撃緩衝材「GEL」や、自然な足の運びを促す「GUIDESOLE」など、画期的な技術は全てこの研究所から生まれています。競合他社がデザインやマーケティングで勝負する中、アシックスは「科学に裏打ちされた本物の機能性」**という、揺るぎない軸を持っているのです。このオーセンティシティ(本物であること)が、特にパフォーマンスを重視するアスリートやランナーからの絶大な信頼に繋がっています。

  • 2.【情緒的価値】二つの強力なブランドストーリー: 機能性だけでは、消費者の心は掴めません。アシックスは、ブランドが持つ「物語(ストーリー)」を伝えることにも成功しました。

    • ASICSブランド: 「健全なる精神は健全なる身体にこそ宿る」という創業哲学を現代的に再解釈。「動くことは、心身を解放し、ポジティブな状態になること」というメッセージを発信し、単なる競技スポーツのブランドから、人々のウェルネスに寄り添うライフスタイルブランドへとイメージを進化させています。

    • Onitsuka Tigerブランド: こちらは機能性ではなく、**「日本の伝統」「ヘリテージ」「クラフトマンシップ」**を前面に打ち出しました。過去のアーカイブを現代的に復刻したデザインが、レトロでありながら新しいと評価され、ファッションアイテムとしての地位を確立。特に海外での人気は絶大で、「クールな日本のブランド」として認識されています。

この**「機能的価値(ASICS)」「情緒的価値(Onitsuka Tiger)」**という、性質の異なる二つの価値を高いレベルで両立させていることこそ、アシックスの唯一無二の強みと言えるでしょう。

直近の業績・財務状況:黄金時代の到来を告げる力強い数字

アシックスの近年の業績は、まさに絶好調の一言です。その力強い数字を確認していきましょう。

損益計算書(PL)分析:全方位的な成長と高収益化

  • 売上高 2023年12月期に過去最高の5,704億円を達成。そして、2024年12月期第1四半期決算でも、前年同期比14.3%増と、その勢いは全く衰えていません。成長を牽引しているのは、パフォーマンスランニングとオニツカタイガーです。

  • 地域別動向: 特筆すべきは、日本、北米、欧州、中華圏、東南アジアなど、ほぼ全ての地域で二桁成長を達成している点です。一部の地域や製品に依存しない、バランスの取れた成長を実現していることは、非常にポジティブな材料です。

  • 営業利益・利益率: 2023年12月期の営業利益641億円営業利益11.2%)と、こちらも過去最高を記録。前述の通り、高価格帯製品の好調とDTC比率の向上が、高い利益率を支えています。かつての「薄利多売」の姿はどこにもありません。

貸借対照表(BS)分析:健全性を保ったままの成長

急成長する企業は、運転資金の増加や過大な設備投資で財務が悪化しがちですが、アシックスのBSは健全です。

  • 棚卸資産(在庫): 在庫レベルは適切にコントロールされており、DTCの活用によって需要予測の精度が向上していることが伺えます。人気商品を欠品させず、かつ不良在庫を抱えないという、巧みな在庫管理が実現できています。

  • 財務基盤: 自己資本比率50%を超えており、財務的な安定性は盤石です。この安定した財務基盤があるからこそ、積極的なマーケティング投資や研究開発投資を継続できるのです。

キャッシュフロー(CF)計算書分析:成長投資と株主還元の両立

  • 営業キャッシュフロー: 本業で安定的にキャッシュを稼ぎ出せています。

  • 投資キャッシュフロー: アシックススポーツ工学研究所への投資や、デジタル関連、店舗開発など、将来の成長に向けた投資を積極的に行っています。

  • 財務キャッシュフロー: 稼いだキャッシュを、安定配当や自己株式取得といった株主還元にも充当しており、株主を重視する姿勢も明確です。

経営指標:ROE・ROICの劇的な改善

  • ROE(自己資本利益率): かつては一桁台で低迷していましたが、直近では15%を超える高い水準にまで改善しています。

  • ROIC(投下資本利益率): こちらも二桁台を達成しており、投下した資本に対して、いかに効率的に利益を生み出せているかを示しています。

これらの指標は、アシックスが単に規模を拡大しているだけでなく、「稼ぐ力」そのものが質的に向上したことを証明しています。

市場環境・業界ポジション:巨人たちの中で輝きを放つ

アシックスが戦う市場と、その中での立ち位置を確認しましょう。

属する市場の成長性:健康志向という世界的メガトレンド

アシックスを取り巻く市場環境は、強力な追い風が吹いています。

  • 世界的な健康志向の高まり: コロナ禍を経て、人々は心身の健康に対する意識をかつてなく高めています。ランニングやウォーキングは、最も手軽に始められる健康維持活動であり、その市場は今後も拡大が見込まれます。

  • ランニング市場の活況: 市民マラソン大会の復活や、厚底カーボンプレートシューズの登場が、ランニング市場全体の活性化に繋がっています。

  • スニーカー市場の拡大: スニーカーは、もはやスポーツをする時だけのものではありません。オフィスカジュアルから日常のファッションまで、あらゆるシーンで履かれる必須アイテムとなっており、市場は拡大の一途を辿っています。

アシックスは、この「ウェルネス」「スポーツ」「ファッション」という、巨大かつ成長する3つの市場の交差点に、最適な製品ポートフォリオを持って位置しているのです。

競合比較と業界ポジション:パフォーマンス領域での復権

  • 競合環境: グローバル市場では、ナイキアディダスが依然として2大巨頭です。しかし近年、機能性を武器にしたHOKA(デッカーズ・アウトドア社)や、ファッション感度の高い層に支持されるニューバランス、そしてアシックスの復権が著しく、市場の勢力図は変化しつつあります。

  • アシックスのポジション:

    • パフォーマンスランニング: かつてはナイキの厚底シューズに市場を席巻されましたが、アシックスはMETASPEEDシリーズで見事に反撃。今や、シリアスランナーの選択肢として、ナイキと並び称されるトップブランドの地位を奪還しました。科学的アプローチに基づく**「機能性」と「信頼性」**で、独自のポジションを築いています。

    • スポーツライフスタイル: オニツカタイガーは、他のスポーツブランドとは一線を画す、**「ファッション・ヘリテージブランド」**としての地位を確立。直接的な競合は、むしろファッションブランドと言えるかもしれません。このユニークなポジショニングが、価格競争に巻き込まれない高い収益性を生んでいます。

アシックスは、もはやナイキやアディダスの後追いをする存在ではありません。自らの強みを再定義し、戦うべき場所で確実に勝利を収めることで、独自の輝きを放っているのです。

技術・製品・サービスの深堀り:アシックスの魂と心臓部

アシックスの強さの根源である、技術と製品についてさらに深く掘り下げます。

企業の心臓部「アシックススポーツ工学研究所」

アシックスの全ての製品は、科学的な知見に基づいて生まれます。「アシックススポーツ工学研究所」では、材料力学、バイオメカニクス、人間工学など、様々な分野の専門家が、日夜研究を続けています。 高速カメラでランナーのフォームを分析し、数千人もの足型データを蓄積し、新しい素材の物性試験を繰り返す。こうした地道な研究開発の積み重ねが、他社には真似のできない製品の優位性を生み出しているのです。 特に、エリートランナー向けに開発された**「METASPEED」シリーズ**は、この研究所の真骨頂です。ランナーの走り方を、推進力を効率的に使う「ストライド型」と、回転数を上げる「ピッチ型」に分類し、それぞれの走法に最適化されたカーボンプレートシューズを開発するという、前代未聞のアプローチを取りました。この徹底したユーザー視点の製品開発が、多くのアスリートの支持を集め、ブランドイメージを劇的に向上させるきっかけとなったのです。

ブランドのアイコン「GEL™」と「Onitsuka Tiger」

  • GEL™テクノロジー: 1980年代に開発された、アシックスを象徴する衝撃緩衝技術です。その機能性の高さから、パフォーマンスシューズの核となる技術であり続けると同時に、近年では「GEL-KAYANO」や「GEL-NYC」といったモデルが、Y2Kファッションの文脈で再評価され、スニーカー市場でも人気を博しています。「機能」が「ファッション」としても評価されるという、理想的なサイクルが生まれています。

  • Onitsuka Tigerのブランド戦略: オニツカタイガーの成功は、緻密なブランド戦略の賜物です。機能性を謳うのではなく、ブランドの歴史や日本の美意識を前面に押し出しました。アイコンモデルである**「MEXICO 66」**は、映画『キル・ビル』で着用されたこともあり、国境を越えるカルチャーアイコンとなりました。さらに、イタリア人デザイナー、アンドレア・ポンピリオをクリエイティブディレクターに起用し、伝統と現代性を融合させたコレクションを発表。これにより、単なる復刻スニーカーブランドから、トータルファッションブランドへと進化を遂げました。

経営陣・組織力の評価:V字回復を導いたリーダーシップ

経営者:廣田康人社長の経営改革

アシックスの近年のV字回復は、2018年に就任した廣田康人社長兼CEOの強力なリーダーシップ抜きには語れません。就任当時、業績は低迷していましたが、廣田氏は聖域なき改革を断行しました。

  • 不採算事業の整理(選択と集中): 成長が見込めない事業や地域から撤退し、経営資源を「ランニング」「オニツカタイガー」「DTC」といった成長領域に集中させました。

  • デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進: ECサイトの強化、顧客データ分析基盤の構築、サプライチェーンの効率化など、デジタル技術を経営のあらゆる側面に導入しました。

  • グローバル経営体制の強化: 本社主導の意思決定から、各地域の自主性を重んじる体制へと移行。現地のニーズに即した迅速な経営を可能にしました。

これらの改革が、アシックスを筋肉質でスピーディーな組織へと変革し、現在の成長の礎を築いたのです。

組織文化:創業哲学とグローバルマインドの融合

アシックスには、「健全なる精神は健全なる身体にこそ宿る」という創業哲学が、組織文化として深く根付いています。真面目で誠実な製品開発姿勢は、この文化から生まれています。 近年では、それに加えて、多様な国籍やバックグラウンドを持つ人材を積極的に登用し、グローバル企業にふさわしいダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。日本のものづくり精神と、グローバルな視点が融合することで、組織としての競争力はさらに高まっています。

中長期戦略・成長ストーリー:アシックスは、まだ速くなる

現在の好調は、ゴールではありません。アシックスは、さらなる高みを目指しています。

中期経営計画2026「WIN THE RACE」

アシックスは、2026年までの成長戦略として「WIN THE RACE」を掲げています。その内容は、現状に満足しない、極めて野心的なものです。

  • 定量目標(2026年12月期):

    • 売上高7,500億円以上(2023年比で約31%増)

    • 営業利益率:12%以上

    • ROE:14%以上

この高い目標を達成するため、3つの基本戦略を掲げています。

  1. Be the #1 Running Brand(ランニングで世界一になる): METASPEEDで得たトップ層からの信頼を、一般ランナー向けの製品にも波及させ、あらゆるレベルのランナーにとっての「No.1ブランド」を目指します。

  2. Grow Profitable Businesses(高収益事業へ成長させる): オニツカタイガーをグローバルなファッションブランドとしてさらに成長させると同時に、テニスやアウトドアといった、将来の収益柱となりうるカテゴリーを育成します。

  3. Re-imagine our Business Foundation(事業基盤を再構築する): DTC比率をさらに高め、顧客とのダイレクトな関係を深化させます。また、サステナビリティへの取り組みも強化し、持続可能な企業としての価値を高めます。

この中計は、アシックスが短期的な成功に浮かれることなく、長期的な視点でさらなる成長を目指していることの力強い宣言です。

リスク要因・課題:栄光の裏に潜む影

絶好調に見えるアシックスですが、投資家として冷静にリスクも認識しておく必要があります。

外部リスク:コントロール不能な逆風

  • 為替変動: 海外売上高比率が約8割と高いため、為替の変動は業績に大きく影響します。急激な円高は、利益を圧迫する要因となります。

  • 世界経済の動向: スニーカーやアパレルは景気の影響を受けやすい消費財です。世界的な景気後退が起これば、消費マインドが冷え込み、売上が伸び悩む可能性があります。

  • 地政学リスク: 特定の国や地域(特に中華圏)への依存度が高まると、その地域の政治・経済情勢の変化がリスクとなります。

  • サプライチェーン: 生産拠点の多くを東南アジアに置いており、自然災害や政治情勢の変化によるサプライチェーンの混乱リスクは常に存在します。

内部リスク:ブームの持続性と競争の激化

  • ブームの一巡リスク: 現在の好調を支えるオニツカタイガーや、厚底シューズのブームが永遠に続く保証はありません。トレンドの変化に対応し、次のヒット商品を生み出し続けられるかが課題です。

  • 熾烈な競争環境: ナイキ、アディダス、HOKAといった競合他社も、巨額のマーケティング費用と研究開発費を投じて、常にシェアを奪い合いに来ます。この厳しい競争を勝ち抜き続ける必要があります。

  • 在庫管理: DTC化が進んだとはいえ、需要予測を誤れば、過剰在庫や品切れのリスクは残ります。特に、ファッション性の高い商品はライフサイクルが短いため、在庫管理の難易度は高いと言えます。

株価動向・バリュエーション分析:成長期待を織り込んだ現在地

株価推移の分析:V字回復からの青天井

アシックスの株価は、業績のV字回復と軌を一にして、2020年以降、美しい右肩上がりのチャートを描いています。特に2023年以降は上昇の角度を急にし、上場来高値を次々と更新。市場の期待の高さが伺えます。これは、アシックスが単なる「割安なバリュー株」から、**「成長性を評価されるグロース株」**へと、市場での位置づけを完全に変えたことを意味しています。

バリュエーション分析:競合比較で見る株価水準

2025年6月21日時点の株価(終値10,025円)を基準に、バリュエーションを評価します。

  • PER(株価収益率):約30倍 これは、日本の製造業の平均と比べると高い水準です。しかし、アシックスを評価する際は、グローバルな競合他社と比較する必要があります。

    • ナイキ: 約27倍

    • デッカーズ・アウトドア(HOKA): 約33倍 こうして見ると、アシックスのPERは、グローバルな高成長ブランドとして、市場から妥当な評価を受けている水準と言うことができます。決して割安ではありませんが、その成長性を考えれば、過度に割高とも言えません。

  • PBR(株価純資産倍率):約4.8倍 こちらも高い水準ですが、ROEが15%を超えていることを考えれば、正当化できる範囲内です。

現在の株価は、「中期経営計画2026」の達成を、ある程度織り込み始めていると考えるべきでしょう。今後の株価がさらに上昇するためには、市場の期待を上回る業績を出し続ける必要があります。

総合評価・投資判断まとめ:黄金時代は、まだ始まったばかりか

全ての分析を踏まえ、アシックスへの最終評価を下します。

ポジティブ要素(投資妙味)

  • 二刀流の強力なブランド: 「機能のASICS」と「ファッションのOnitsuka Tiger」が両輪で成長を牽引。

  • 揺るぎない技術的優位性: アシックススポーツ工学研究所が生み出す科学的根拠に基づいた製品力。

  • 劇的に改善した収益性: 高付加価値化とDTCシフトにより、高収益体質へ転換。

  • 明確かつ野心的な成長戦略: 中期経営計画が示す、さらなる成長への強い意志と具体的な道筋。

  • 経営改革の成功: 廣田社長のリーダーシップによるV字回復の実績は、今後の経営への信頼感を高める。

ネガティブ要素(潜在リスク)

  • 割安感のない株価水準: すでに高い成長期待が織り込まれており、短期的なアップサイドは限定的かもしれない。

  • ブームの一巡リスク: 特にオニツカタイガーの現在の人気が、今後も同じペースで続くかは不透明。

  • 熾烈なグローバル競争: 常に革新を続けないと、競合に足元をすくわれるリスクがある。

最終的な投資判断

私D.Dは、株式会社アシックス(7936)を、**「日本を代表する真のグローバル・グロース株へと変貌を遂げた、長期投資に値する傑出した企業である」**と結論付けます。

かつての「割安な優良株」の時代は終わりを告げました。今ののアシックスは、その成長性に対してプレミアムを支払ってでも保有する価値のある、世界レベルの成長株です。

もちろん、現在の株価水準は、決して安くはありません。短期的な調整局面は、今後いくらでも訪れるでしょう。しかし、アシックスが成し遂げた事業構造の変革は本質的であり、その成長は一過性のものではありません。

「ランニングで世界一になる」という目標は、もはや夢物語ではなく、現実的な射程圏内に入っています。そして、オニツカタイガーは、国境を越えて愛される日本の文化アイコンとしての地位を、さらに強固なものにしていくでしょう。

投資家として問われるのは、この黄金時代が今後も続いていくという未来を信じられるかどうかです。もしあなたが、アシックスの技術力、ブランド力、そして経営陣のビジョンを信じるならば、目先の株価変動に惑わされることなく、同社の長期的な成長の果実を享受できる可能性は高いと、私は考えます。

この疾走がどこまで続くのか。その未来を、株主として共に見届ける価値は、十分にあるのではないでしょうか。

【免責事項】 本記事は、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますよう、お願い申し上げます。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者および情報提供元は一切の責任を負いません。

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