はじめに:リョービ、新たなる成長軌道への期待
自動車業界が100年に一度の大変革期に突入する中、その心臓部とも言える部品製造において、世界的な競争力を誇る日本企業がある。広島県府中に本社を構えるリョービ株式会社(東証プライム:5851)。多くの個人投資家にとっては、かつてのパワーツール(現在は京セラグループに事業譲渡)や釣具のイメージが強いかもしれない。しかし、その真の姿は、自動車の軽量化に不可欠な「ダイカスト」技術で世界をリードし、建築分野においても高いシェアを誇る、技術主導型のグローバルメーカーである。
EV(電気自動車)化の進展は、自動車の構造を根底から覆し、部品メーカーには新たな技術と生産体制への変革を迫っている。この巨大な潮流の中で、リョービは「ギガキャスト」と呼ばれる次世代の生産技術へ果敢に挑戦し、業界の注目を集めている。これは単なる技術革新に留まらず、同社の未来の成長ストーリーそのものを描き出す、極めて重要な一手と言えるだろう。
この記事では、リョービがどのような企業であり、いかなるビジネスモデルを構築し、そして未来に向けてどのような成長戦略を描いているのか、表面的な数字だけでは見えてこない「定性的」な側面に光を当て、その投資価値を深く、多角的に掘り下げていく。この記事を読み終える頃には、あなたはリョービという企業の持つ真のポテンシャルと、その将来性について、確かな洞察を得ているはずだ。
【企業概要】堅実な経営で築き上げた信頼の歴史
設立と沿革:ダイカスト技術と共に歩んだ80年
リョービの歴史は、1943年、戦時下の広島県府中市で「株式会社菱備製作所」として産声を上げたことに始まる。社名は、創業地の旧国名「備後」と隣接する「備中」を合わせた「両備(りょうび)」地方に由来し、三菱電機との取引があったことから「菱」の字が当てられたという。
創業翌年の1944年には、早くも同社の根幹技術となるダイカスト製品の製造販売を開始。ダイカストとは、溶融した非鉄金属(アルミニウム、亜鉛、マグネシウムなど)を精密な金型に高速・高圧で注入し、高精度かつ複雑な形状の鋳物を大量生産する技術である。この技術を磨き上げることで、リョービは戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本のものづくり産業の発展と共にその礎を築いてきた。
1961年には東京証券取引所に上場。その後、ダイカストで培った鋳造・加工技術を応用し、1963年には建築用品事業(ドアクローザ)、1968年にはパワーツール事業(現在は譲渡)へと多角化を進めた。そして1973年、グローバルな事業展開を見据え、現在の「リョービ株式会社」へと社名を変更。以降も、印刷機器事業への進出や海外拠点の設立を積極的に行い、事業ポートフォリオを拡大してきた。その歴史は、まさに「技術の深化と応用」の繰り返しであり、一つのコア技術からいかに多様な価値を創造できるかを示す好例と言える。
事業内容:3つの柱が支える安定した収益基盤
現在のリョービは、大きく分けて3つの事業セグメントで構成されている。
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ダイカスト事業 売上の大部分を占める基幹事業。自動車のエンジンやトランスミッション、近年ではEV向けのモーターケースやバッテリーケース、さらにはボディ構造部品など、軽量化と高剛性が求められる重要部品を世界中の自動車メーカーに供給している。世界トップクラスのダイカストメーカーとして、その技術力と品質は国際的に高い評価を得ている。
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建築用品事業 ダイカスト技術を応用して生まれた事業であり、国内トップシェアを誇るドアクローザ(ドアが自動で静かに閉まるための装置)が主力製品。その他、ヒンジや引戸クローザなど、住宅からオフィスビルまで、あらゆる建築物の快適性と安全性を支える製品を提供している。 BtoC向けのDIY商品から、BtoB向けの高機能製品まで幅広いラインナップを持つ。
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印刷機器事業 カタログや雑誌、美術書などの商業印刷に使用されるオフセット印刷機およびその周辺機器を製造・販売。デジタル化の波に押され市場環境は厳しいものの、ニッチな市場で独自の技術力を発揮し、一定の存在感を保っている。
これら3つの事業は、それぞれ異なる市場を対象としながらも、「ダイカスト」というコア技術で緩やかにつながっており、相互に技術的知見をフィードバックし合うことで、グループ全体の技術力向上に貢献している。
企業理念:「技術と信頼と挑戦」に込められた想い
リョービグループが掲げる企業理念は、「技術と信頼と挑戦で、健全で活力にみちた企業を築く。」というものだ。これは単なるスローガンではなく、同社の経営の根幹をなす哲学である。
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技術:明日をみつめる確かな技術で、人々のくらしの中にゆとりと豊かさを創造する。
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信頼:社会との信頼関係を大切にし、社員の個性と創意が活かされた活力ある企業を築く。
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挑戦:広い視野のもとに知性と感性を磨き、勇気をもって未来に挑戦しよう。
この理念は、ものづくりへの真摯な姿勢と、顧客や社会といった全てのステークホルダーとの関係性を重視する経営方針を示している。特に「信頼」を経営姿勢の中心に据えている点は、長期的な視点で事業を運営し、持続的な成長を目指すという強い意志の表れであろう。
コーポレートガバナンス:透明性と監督機能の強化
リョービは、監査役設置会社として、経営の透明性と監督機能の強化に努めている。取締役会は、社外取締役を複数名選任することで、外部の客観的な視点を取り入れ、経営判断の妥当性を担保する体制を構築している。また、取締役会の諮問機関として、報酬や人事・組織を検討する委員会を設置するなど、ガバナンス体制の強化を継続的に図っている点は評価できる。企業理念に掲げる「信頼」を具現化するためにも、実効性のあるコーポレートガバナンスは不可欠であり、その継続的な改善努力は、投資家にとって安心材料の一つとなるだろう。
【ビジネスモデルの詳細分析】リョービの強さの源泉
収益構造:自動車業界と運命を共にするダイカスト事業
リョービの収益の柱は、言うまでもなくダイカスト事業である。特に自動車産業への依存度が高く、国内外の自動車生産台数の動向が業績に直接的な影響を与える構造となっている。これはリスクであると同時に、世界的に拡大を続ける自動車市場の成長を取り込めるという強みでもある。
顧客は特定の自動車メーカー系列に偏ることなく、国内外の主要なメーカーと幅広く取引を行っている。この独立系のポジションは、特定のメーカーの生産動向に左右されにくい安定性をもたらすと同時に、グローバルな競争の中で常に技術力を磨き続けることを要求される厳しい環境でもある。
一方、建築用品事業は、国内の住宅着工件数やリフォーム市場の動向に影響される。景気変動の影響を受けやすい側面はあるものの、自動車産業とは異なる景気サイクルを持つため、事業ポートフォリオ全体のリスク分散に貢献している。ドアクローザというニッチながらも生活に不可欠な製品で高いシェアを握っているため、安定した収益源となっている点が特徴だ。
競合優位性:他社を圧倒する「一貫生産体制」と「グローバル供給網」
リョービのダイカスト事業における最大の強みは、**「金型の設計・製作から、鋳造、加工、組み立てに至るまで、すべての工程を自社で完結できる一貫生産体制」**にある。
通常、ダイカスト製品の製造においては、金型は専門メーカー、鋳造は鋳造メーカー、加工は加工メーカーといったように、工程ごとに分業されることが多い。しかしリョービは、これらの工程を全て内製化している。これにより、以下のような圧倒的な優位性を生み出している。
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開発スピードの速さ:顧客である自動車メーカーが新車を開発する際、部品メーカーには極めて短期間での試作品開発と量産体制の構築が求められる。リョービの一貫生産体制は、工程間の連携がスムーズであるため、開発リードタイムを大幅に短縮できる。顧客の要求に対して迅速かつ柔軟に対応できる「機動力」は、厳しい開発競争において絶大な武器となる。
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高品質の実現:金型の設計段階から最終製品の品質を見据えた「作り込み」が可能となる。鋳造や加工の現場で得られた知見を即座に金型設計にフィードバックすることで、製品の品質を継続的に改善できる。この密な連携が、リョービ製品の高い信頼性の源泉となっている。
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技術提案力:顧客の設計図通りに製品を作るだけでなく、「このような形状にすれば、より軽量化できます」「この工法ならコストを削減できます」といった、プロアクティブな技術提案(コンカレント・エンジニアリング)が可能になる。これは、単なるサプライヤーではなく、顧客の開発パートナーとしての地位を確立する上で極めて重要である。
さらに、この強力な一貫生産体制を、日本国内だけでなく、アメリカ、イギリス、中国、メキシコ、タイといった世界中の拠点に展開している点も大きな強みだ。自動車メーカーのグローバルな生産体制に対応し、世界中のどこでも同じ品質の製品を供給できる「グローバル供給網」を構築している。これにより、地産地消のニーズに応え、為替リスクや地政学リスクを分散させることが可能となっている。
バリューチェーン分析:技術の源流から顧客価値創造まで
リョービのバリューチェーンは、その一貫生産体制そのものに価値創造の核心がある。
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研究開発:顧客のニーズを先取りした新技術・新工法の開発が起点となる。アルミニウム合金だけでなく、マグネシウム合金など新素材の研究も行っており、これが将来の競争力を左右する。
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金型設計・製作:ダイカストの品質を決定づける最重要工程。長年蓄積されたノウハウと最新のシミュレーション技術を駆使し、高精度な金型を自社で生み出す。
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鋳造・加工:世界中の拠点で、最新鋭のダイカストマシンを駆使して生産。徹底した品質管理と生産効率の追求が行われる。
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販売・サービス:グローバルな営業網を通じて、顧客に製品を供給。技術提案やアフターサービスを通じて、顧客との長期的な信頼関係を構築する。
この一連の流れが社内で緊密に連携していることこそが、リョービの価値創造のエンジンなのである。特に、ダイカストで培った精密な金属加工技術や品質管理のノウハウが、建築用品事業の製品開発にも活かされている点は、事業間のシナジーを示す好例と言えるだろう。
【直近の業績・財務状況】安定と成長への転換点(定性的評価)
リョービの近年の業績は、外部環境の変動を受けながらも、着実に回復基調を辿っている。新型コロナウイルス感染症拡大によるサプライチェーンの混乱や、半導体不足に伴う自動車の減産といった逆風に晒された時期もあったが、その後は国内外での自動車生産の回復や、為替の円安効果が追い風となり、売上は拡大傾向にある。
利益面では、原材料であるアルミニウム価格の高騰や、世界的なエネルギーコストの上昇、人件費の増加などが圧迫要因となっている。しかし、生産性の改善努力や、増収効果によってこれらのコスト増を吸収し、利益を確保する地力の強さを見せている。特に、主力のダイカスト事業が国内外で好調に推移し、全体の業績を牽引している構図だ。
財務体質に目を向けると、長年の堅実な経営により、安定した基盤が築かれている。自己資本比率も健全な水準を維持しており、将来の成長に向けた投資余力は十分にあると評価できる。キャッシュ・フローの状況も安定的であり、事業活動から生み出されるキャッシュを、着実に設備投資や株主還元に振り向けている。
全体として、外部環境の荒波を乗り越え、安定した収益基盤の上で、次なる成長ステージへと移行しつつある、そんなポジティブな状況がうかがえる。特に、後述する中期経営計画で示された積極的な投資方針は、この安定した財務基盤があってこそ可能となる戦略であり、今後の企業価値向上への期待を高めるものである。
【市場環境・業界ポジション】追い風吹く巨大市場での立ち位置
属する市場の成長性:EV化がもたらす「軽量化」という巨大な追い風
リョービが主戦場とする自動車向けダイカスト市場は、今、構造的な変化の真っ只中にある。その最大のドライバーが、世界的なEVシフトである。
EVは、ガソリン車に比べて重いバッテリーを搭載するため、航続距離を伸ばすためには、車体全体の「軽量化」が至上命題となる。鉄に比べて比重が約3分の1と軽いアルミニウムは、この軽量化ニーズに応える最適な素材であり、アルミダイカスト部品の需要は今後、爆発的に増加することが予想される。
これまでエンジンやトランスミッションといった内燃機関の部品がダイカストの主役だったが、EVでは、バッテリーを保護する「バッテリーケース」や、モーターを格納する「モーターケース」、さらには車体の骨格となる「ボディ・シャシー部品」といった、より大型で高付加価値な部品にアルミダイカストの採用が拡大している。これは、リョービにとって事業領域そのものが拡大することを意味しており、極めて大きな成長機会である。
競合比較とポジショニング:独立系トップとしての強み
自動車向けダイカスト業界には、アーレスティや、アイシングループ、マレリといった強力な競合が存在する。これらの中には、特定の自動車メーカー系列に属する企業も多い。
こうした競合環境の中でのリョービのポジショニングは、**「グローバルに展開する独立系トップメーカー」**と表現できる。
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技術力と品質:世界中のあらゆるメーカーの厳しい要求に応え続けてきた実績が、その技術力と品質の高さを証明している。特に、金型から一貫して手掛けることによる複雑形状への対応力や、品質の安定性には定評がある。
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グローバル対応力:日米欧、そしてアジアに生産拠点を持ち、顧客のグローバルなサプライチェーンに柔軟に対応できる体制は、他の独立系メーカーに対して大きなアドバンテージとなっている。
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顧客基盤の多様性:系列に属さないため、特定のメーカーの戦略に縛られることなく、幅広い顧客と取引ができる。これにより、リスクを分散し、多様なニーズに触れることで技術を磨く機会を得ている。
建築用品事業においては、ドアクローザで国内トップシェアを誇り、圧倒的なブランド力と販売網を築いている。競合としては、美和ロックやGOALといった鍵・錠前メーカーが挙げられるが、ドアクローザという専門分野においては、リョービの地位は揺るぎないものとなっている。ダイカストで培った製造技術を応用し、高品質な製品を安定供給できる点が、その競争力の源泉である。
【技術・製品・サービスの深堀り】未来を切り拓くイノベーション
特許・研究開発:次世代自動車を見据えた「ギガキャスト」への挑戦
リョービの技術力を象徴する最新の取り組みが、**「ギガキャスト」**への挑戦である。ギガキャストとは、これまで多数の鉄板部品を溶接して作っていた複雑な車体構造部品を、大型のアルミダイカストで一体成形する革新的な生産技術だ。
この技術は、米国のEVメーカー、テスラが先駆けて導入し、自動車業界に衝撃を与えた。ギガキャストには、以下のような革命的なメリットがある。
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劇的な部品点数の削減:数十点にも及ぶ部品を一つの部品に集約できるため、製造工程が大幅に簡素化される。
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コスト削減と生産性向上:溶接工程やそれに伴う多数のロボットが不要になるため、設備投資を抑制し、生産性を飛躍的に向上させることができる。
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車体性能の向上:接合部がなくなることで、車体の剛性が向上し、走行安定性や衝突安全性の向上に貢献する。
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軽量化:アルミニウムを用いることで、車体の大幅な軽量化を実現できる。
リョービは、この未来の製造技術の波に乗り遅れることなく、静岡県の菊川工場に国内の専業ダイカストメーカーとしては初となる6,500トン級の超大型ダイカストマシンを導入し、2025年から大型部品の試作サービスを開始した。これは、日本の自動車メーカーが本格的にギガキャストの採用を検討する上で、極めて重要な役割を果たすことになるだろう。
リョービが長年培ってきた金型技術、鋳造シミュレーション技術、そしてアルミ合金に関する知見は、このギガキャストという未踏の領域において、他社に対する大きなアドバンテージとなる可能性を秘めている。
商品開発力:暮らしの安全と快適を支える建築用品
建築用品事業においても、その商品開発力は高く評価されている。主力製品のドアクローザは、単にドアを閉めるという機能だけでなく、デザイン性や静音性、耐久性といった付加価値を追求し続けている。インテリアに調和するスタイリッシュなデザインの製品や、簡単な施工で後付けできるDIY向けの製品など、市場のニーズを的確に捉えた商品を次々と生み出してきた。
近年では、高齢化社会やユニバーサルデザインへの関心の高まりを受け、電動のドア開閉装置「RUCAD(ラクアド)」など、バリアフリーに対応した製品開発にも力を入れている。これは、ダイカストで培ったメカニズム設計の技術と、市場ニーズを汲み取るマーケティング力が融合した好例であり、社会課題の解決に貢献する企業姿勢の表れでもある。
【経営陣・組織力の評価】未来を創造する「人」の力
経営者の経歴・方針:グローバルな視点を持つリーダーシップ
現在のリョービを率いるのは、代表取締役社長の浦上彰氏である。同氏は、リョービに入社後、米国の大学院で国際経営学修士を取得するなど、グローバルな視点と経営学の知見を併せ持つリーダーだ。
浦上社長は、企業理念である「技術と信頼と挑戦」を経営の根幹に据えつつ、変化の激しい時代に対応するための変革を力強く推進している。特に、2025年から始まる新中期経営計画の策定と公表は、同社の歴史の中でも特筆すべき出来事である。これまで詳細な中期計画を対外的に公表してこなかったリョービが、具体的な目標と戦略を株主や投資家に示すことで、経営の透明性を高め、企業価値向上への強いコミットメントを表明した。そのリーダーシップの下、リョービは新たな成長ステージへと舵を切ったと言える。
社風・従業員満足度:「ものづくりは、ひとづくり」
リョービの強さを支える根底には、「ものづくりは、ひとづくり」という考え方がある。これは、優れた製品は、優れた人材によってのみ生み出されるという信念の表れだ。同社の採用サイトや統合報告書からは、社員一人ひとりの個性と創意を尊重し、挑戦を奨励する企業文化がうかがえる。
現場では、「よく観る、よく聴く、そして自ら考える」という姿勢が大切にされている。これは、単にマニュアル通りに作業をこなすのではなく、常に問題意識を持ち、主体的に改善に取り組むことを奨励する風土を示している。ダイカストという自然現象を相手にする難しいものづくりにおいて、このような現場の知恵と改善力が、品質と生産性を支える重要な要素となっている。
また、ダイバーシティの推進やワークライフバランスの向上にも積極的に取り組んでおり、社員が心身ともに健康で、能力を最大限に発揮できる職場環境づくりを進めている。こうした人材を大切にする姿勢が、組織全体の活力を生み、持続的な成長の原動力となっているのである。
【中長期戦略・成長ストーリー】「Challenge 2027」が描く未来
リョービは、2025年を初年度とする3ヵ年の中期経営計画「Challenge 2027 ~私たちの知恵と行動で未来を拓く~」を発表した。これは、同社が2035年にありたい姿を見据え、その実現に向けた経営基盤の強化と事業領域の拡大を目指す、極めて意欲的な計画である。
中期経営計画の骨子:成長への積極投資
「Challenge 2027」の核心は、**「成長への積極投資」**にある。3年間で約700億円という大規模な投資を行い、外部環境の変化に強い企業体質の構築を目指すとしている。
主な投資領域は以下の通りである。
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ダイカスト事業の成長領域への投資:EV化に対応するための大型・一体化部品(ギガキャスト)や、電動化部品の生産能力増強に重点的に投資する。これは、市場の構造変化を最大の好機と捉え、積極的にシェアを獲得しにいこうという強い意志の表れだ。
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DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進:生産現場のスマートファクトリー化や、業務プロセスのデジタル化を進め、生産性の向上と競争力の強化を図る。
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人財への投資:社員のリスキリングや能力開発、働きがいのある職場環境づくりに投資し、組織力のさらなる向上を目指す。
成長ストーリー:ダイカストを核とした企業価値の最大化
リョービが描く成長ストーリーは、明確である。
「自動車業界のEVシフトという巨大な追い風を捉え、ギガキャストをはじめとする次世代技術への先行投資によって、ダイカスト事業を飛躍的に成長させる。そこで得られた収益と技術的知見を、建築用品事業や新規事業、そして人財へと再投資することで、企業グループ全体の持続的な成長と企業価値の最大化を実現する。」
このストーリーの実現可能性は、これまで同社が培ってきた技術力、グローバルな生産体制、そして健全な財務基盤によって力強く裏付けられている。中期経営計画の達成は、同社の収益性を一段高いステージへと引き上げるポテンシャルを秘めている。
【リスク要因・課題】成長の裏に潜む注意点
輝かしい成長ストーリーの一方で、投資家として冷静に認識しておくべきリスク要因も存在する。
外部リスク
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自動車産業への高い依存:収益の大部分を自動車産業に依存しているため、世界的な景気後退による自動車販売の低迷や、特定の顧客の生産計画の変動が業績に与える影響は大きい。
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原材料価格とエネルギーコストの変動:主原料であるアルミニウム地金の価格や、電力・ガス料金の変動は、製造コストに直接影響し、利益を圧迫する可能性がある。
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為替レートの変動:海外売上高比率が高いため、為替レートの変動が業績に与える影響は無視できない。円高は業績にとってマイナス要因となる。
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地政学リスク:世界各地に生産拠点を有するため、国際情勢の不安定化やサプライチェーンの寸断といった地政学リスクに常に晒されている。
内部リスク・課題
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技術革新への追随:EV化や自動運転といった技術革新のスピードは非常に速い。ギガキャストのような新たな技術トレンドに乗り遅れれば、競争力を失うリスクがある。継続的な研究開発と巨額の設備投資が求められる。
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人材の確保と育成:DXの推進やグローバルな事業拡大に伴い、高度な専門知識を持つ人材の確保と育成が急務となる。国内外での人材獲得競争は激化しており、重要な経営課題の一つである。
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資本効率の向上:これまで堅実な経営を続けてきた一方で、株価純資産倍率(PBR)が1倍を割れるなど、資本市場からの評価が必ずしも高かったとは言えない。中期経営計画でROE(自己資本利益率)の向上を目標に掲げているが、その達成に向けた具体的な施策の実行力が問われることになる。
【直近ニュース・最新トピック解説】市場の注目点
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中期経営計画「Challenge 2027」の発表:これが現在、リョービを評価する上での最大の材料である。初めて具体的な財務目標と成長戦略を公表したことで、市場の期待感が高まっている。計画の進捗状況は、今後の株価を左右する重要なポイントとなるだろう。
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ギガキャスト向け大型製品試作工場の本格稼働:中期経営計画の成長戦略を象徴する具体的なアクションとして、市場からポジティブに受け止められている。今後、どの自動車メーカーから試作を受注し、量産へとつなげていけるかが注目される。
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海外ファンドによる株式大量保有:近年、海外の有力な投資ファンドがリョービの株式を大量に取得したことが報じられた。これは、同社の技術力や将来性が、グローバルな投資家の視点からも高く評価されていることの証左であり、今後の資本政策や株主還元策への期待を高める要因ともなっている。
【総合評価・投資判断まとめ】
ポジティブ要素
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明確な成長ドライバー:EVシフトに伴う自動車の軽量化ニーズは、リョービの主力事業にとって強力かつ長期的な追い風である。
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高い技術的優位性:金型からの「一貫生産体制」と、次世代技術「ギガキャスト」への先行投資は、他社に対する明確な競争優位性となっている。
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グローバルな事業基盤:世界中に生産・販売拠点を持ち、特定の地域や顧客に依存しない安定した事業基盤を構築している。
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コミットメントされた成長戦略:新中期経営計画「Challenge 2027」により、成長への道筋と経営陣の強い意志が明確に示された。
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株価の割安感:高い技術力と成長ポテンシャルに比して、PBRなどの株価指標には依然として割安感が残されている。
ネガティブ要素(注意点)
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外部環境への依存:自動車市場、原材料価格、為替レートといった、自社でコントロール不能な外部要因に業績が左右されやすい。
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巨額投資の実行リスク:ギガキャストなどへの大規模な設備投資は、将来の大きなリターンが期待される一方で、計画通りに進まなかった場合のリスクも内包している。
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資本効率の改善途上:ROEの向上は経営課題であり、中期経営計画で掲げた目標を達成できるか、その実行力が問われる。
総合判断
リョービは、長年培ってきた世界トップクラスのダイカスト技術を核に、EVシフトという100年に一度の産業構造変革の波に乗り、大きな飛躍を遂げようとしている企業である。新中期経営計画「Challenge 2027」は、その変革に向けた明確なロードマップであり、同社のポテンシャルを解き放つための号砲と言えるだろう。
もちろん、自動車産業への高い依存や原材料価格の変動といったリスクは存在する。しかし、それを補って余りあるほどの巨大な成長機会と、それを掴み取るだけの技術的優位性、そして健全な財務基盤を兼ね備えている点は、高く評価できる。
短期的な株価の変動に一喜一憂するのではなく、自動車業界の構造変化という大きな潮流の中で、リョービがその中核的プレイヤーとしていかに企業価値を高めていくか、という長期的な視点で投資を検討すべき銘柄である。この記事を通じて提供した定性的な分析が、あなたの投資判断の一助となれば幸いである。


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