- そもそも「オイルショック」とは何を指すのか
- 原油価格とインフレの基礎知識
- 原油価格を動かす四つの力
- なぜ原油高はインフレに「直結」するのか
原油価格が跳ね上がると、ニュースには決まって「オイルショック」という言葉が並びます。ガソリン代が上がり、電気代の請求書に驚き、スーパーの値札がじわじわと書き換わっていく。そんなとき、投資をしている人の頭をよぎるのは「自分の株はこのあとどうなるのか」という、きわめて切実な問いではないでしょうか。
この問いに対して、感覚や雰囲気で答えるのではなく、過去のデータに語ってもらおう、というのがこの記事の趣旨です。幸いなことに、私たちには参照できる「実例」が二つあります。ひとつは1973年に世界を直撃した第一次オイルショック。もうひとつは2022年、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに起きた、いわゆる「令和のオイルショック」です。
この二つは、約半世紀という時間を隔てているにもかかわらず、驚くほど似た構造を持っています。そして似ているからこそ、両者を並べて眺めると「原油が上がると株はどうなりやすいのか」「そのとき何が買われ、何が売られたのか」「そして、その後はどうなったのか」というパターンが、輪郭をともなって見えてきます。
この記事では、まず1973年と2022年それぞれで何が起きたのかを丁寧にたどり、株価がどう反応したのかをデータで確認します。そのうえで、二つの相場が共通して教えてくれる「法則のようなもの」を抽出し、最後に、原油高という切り口で「自分で発掘してみる楽しみ」を味わえそうな、あまり知られていない関連銘柄を五つ取り上げます。読み終えるころには、次に原油高のニュースを見たとき、少しだけ落ち着いて相場と向き合えるようになっているはずです。
そもそも「オイルショック」とは何を指すのか
本題に入る前に、言葉の整理をしておきます。投資の文脈で「オイルショック」と言うとき、それは単に「原油が高くなったこと」だけを意味しているわけではありません。より正確には、原油価格の急騰が引き金となって、物価全体が押し上げられ、経済の歯車が狂い、それが金融政策や株式市場にまで波及していく一連のドミノ倒しを指しています。
原油は、ガソリンや灯油の原料であるだけでなく、プラスチック、化学製品、電力、輸送、食料生産まで、ありとあらゆる経済活動の土台に染み込んでいます。だからこそ原油が上がると、その影響は石油業界にとどまらず、社会のすみずみへと広がっていきます。原油高がやっかいなのは、この「広がりやすさ」にあります。
歴史をさかのぼると、大きなオイルショックは主に三度語られます。1973年の第一次オイルショック、1979年から1980年代初頭にかけての第二次オイルショック、そして2022年のものです。第二次オイルショックは、1979年のイラン革命や1980年のイラン・イラク戦争を背景に、国際原油価格が約3年間で約2.7倍に跳ね上がった出来事として知られています。この第二次オイルショックの経緯については、アセットマネジメントOneの解説がコンパクトにまとまっています。
この記事では、データが豊富にそろっていて、かつ現在の私たちが置かれている状況との比較がしやすい1973年と2022年の二つに絞って、深く掘り下げていきます。
原油価格とインフレの基礎知識
二つの相場を見ていく前に、土台となる知識を二つだけ押さえておきます。「そもそも原油価格は何で決まるのか」と「なぜ原油高がインフレに直結するのか」です。この二つを理解しておくと、ニュースの読み方が一段深くなります。
原油価格を動かす四つの力
原油価格は複雑に見えますが、これを動かす力は大きく四つに整理できます。
一つ目は供給です。OPECやその拡大版であるOPECプラスといった産油国グループが、生産量を増やすか減らすかを決めることで、市場に出回る原油の量が変わります。産油国が協調して減産すれば価格は上がりやすく、増産に転じれば下がりやすくなります。1973年のオイルショックは、まさにこの供給を産油国が政治的に絞ったことが引き金でした。
二つ目は地政学リスクです。中東情勢の緊迫、戦争、産油国の政変、重要な輸送路であるホルムズ海峡やスエズ運河の混乱などは、「これから供給が減るかもしれない」という不安を通じて価格を押し上げます。2022年のウクライナ侵攻は、この地政学リスクが価格を動かした典型例です。実際に供給が減らなくても、減るかもしれないという懸念だけで価格が跳ねるのが、この要因の特徴です。
三つ目は需要です。世界経済が好調で工場がフル稼働し、人やモノの移動が活発になれば、エネルギー需要が増えて原油価格は上がりやすくなります。逆に景気後退が懸念されると、需要減を見越して価格は下がります。2022年に130ドルをつけた原油が、その後落ち着いていった一因も、世界経済の減速懸念による需要減の織り込みでした。
四つ目はお金の要因、つまりドル相場と投機マネーです。原油は国際市場でドル建てで取引されるため、ドルの価値が変わると原油価格にも影響します。加えて、先物市場には実需だけでなく投機的な資金も流れ込むため、思惑によって価格が増幅されることもあります。
原油高のニュースに接したときは、「今回の値上がりは供給を絞ったからなのか、地政学不安なのか、それとも需要が強いからなのか」と、どの力が主役なのかを見極める習慣をつけると、その後の展開を予想しやすくなります。とくに、供給不安が主役の値上がりは、景気を冷やしながら物価だけが上がるという、株式市場にとって最もやっかいなタイプになりがちです。
なぜ原油高はインフレに「直結」するのか
次に、原油高がどうやって物価全体を押し上げるのか、その経路を分解してみます。これには三つの段階があります。
第一段階は直接効果です。原油はガソリン、灯油、軽油の原料そのものですから、原油が上がれば、これらの価格はほぼ直接的に上がります。車を運転する人や暖房を使う家庭が、最初に痛みを感じる部分です。
第二段階は間接効果です。原油は輸送と製造のあらゆる場面でコストとして紛れ込んでいます。トラックや船で運ぶ燃料代、工場を動かす電力やプラスチック原料の費用が上がれば、食品や日用品など、一見すると石油と無関係に思える商品の価格まで、じわじわと押し上げられていきます。
第三段階は二次的効果、いわゆる波及です。物価が上がり続けると、働く人は生活を守るために賃上げを求め、企業はコスト増を価格に転嫁し、人々の心の中に「これからも物価は上がるだろう」という予想、いわゆる期待インフレが定着していきます。こうなると、インフレは原油という最初のきっかけを離れて、自律的に回り始めてしまいます。1973年に生まれた「狂乱物価」という言葉は、まさにこの自律的なインフレの暴走を表したものでした。
中央銀行が原油高に神経をとがらせるのは、この第三段階を恐れているからです。物価がいったん自律的に回り始めると、それを止めるには強力な金融引き締めが必要になり、その引き締めが景気を犠牲にしてしまう。原油高が株価に効いてくる根っこには、この「インフレを止めるための痛み」があるのです。
1973年・第一次オイルショックを徹底解剖する
何が、どんな順番で起きたのか
1973年10月6日、第四次中東戦争が勃発しました。これが引き金です。戦争そのものよりも、その後に産油国がとった行動が、世界経済を揺るがすことになります。
10月16日、石油輸出国機構、いわゆるOPECに加盟するペルシャ湾岸の六カ国が、原油の公示価格を1バレルあたり3.01ドルから5.12ドルへと、一気に70パーセント引き上げると発表しました。翌17日には、アラブ石油輸出国機構が原油生産の段階的削減という「石油戦略」を決定し、さらにイスラエルを支持する国々への輸出停止にも踏み切ります。決定打となったのが同年12月23日で、湾岸の産油六カ国は、翌1974年1月から原油価格を5.12ドルから11.65ドルへ引き上げると決めました。
つまり、3ドル程度だった原油が、わずか3カ月ほどで約4倍に膨れ上がったのです。この一連の流れは、石油が単なる「市況商品」ではなく「政治的な戦略商品」として扱われた典型例として、いまも語り継がれています。経緯の詳細は、ENEOSが公開している石油便覧が一次資料に近い形で整理しています。
https://www.eneos.co.jp/binran/document/part01/chapter02/section06.html
価格そのものの推移や当時のインフレ率については、ピクテの金融経済史シリーズがグラフ付きでわかりやすく解説しています。
https://www.pictet.co.jp/basics-of-asset-management/new-generation/financial-history/20250828.html
日本経済を襲った「狂乱物価」と戦後初のマイナス成長
当時の日本は、エネルギーの約8割近くを輸入原油に依存していました。資源の乏しい国にとって、原油価格が3カ月で4倍になるという事態は、文字どおり経済の急所を突かれたに等しい衝撃でした。
物価は瞬く間に跳ね上がります。1974年の消費者物価指数は前年比でおよそ23パーセントという、いまでは想像しにくい上昇率を記録しました。便乗値上げも横行し、この異常な物価高は「狂乱物価」という造語まで生み出しました。さらに人々の不安心理が買いだめや買い占めを呼び、全国のスーパーから紙製品や洗剤が消えるという、あの有名な光景が現れたのもこの時期です。
物価上昇を抑え込むため、日本銀行は公定歩合を9パーセントまで引き上げる強烈な金融引き締めに動きました。総需要抑制策がとられ、大型公共事業は凍結・縮小され、企業の設備投資にもブレーキがかかります。その結果、1974年の日本経済は実質成長率がマイナスに転じ、戦後初めてのマイナス成長を経験することになりました。これにより、長く続いた高度経済成長期は、ここで完全に終わりを告げます。
この「高度成長の終焉」という大きな転換点について、資源エネルギー庁は日本のエネルギー史の文脈から振り返っています。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/history4shouwa2.html
ここで注目したいのは、原油高が単独で不況を生んだのではない、という点です。原油高がインフレを呼び、そのインフレを抑えるための金融引き締めが景気を冷やし、結果として不況に陥った。この「原油高 → インフレ → 金融引き締め → 景気悪化」という連鎖こそが、オイルショックの本質であり、後ほど見る2022年でも同じ構図が繰り返されることになります。
株価はどう動いたのか
では、肝心の株価です。日経平均株価は、1973年の年初に5,200円台の高値をつけていましたが、その後の下落で1974年には3,300円台まで沈みました。下落率にすればおよそ3割台後半、ざっくり言えば「4割近く下がった」ことになります。これは個人投資家にとっては、ポートフォリオの価値がほぼ半分近くまで目減りしかねない、相当に厳しい調整でした。
ただし、ここでひとつ冷静に押さえておきたいことがあります。1973年から1974年の日本株の下落は、オイルショックだけで説明できるものではありません。背景には、1971年のニクソン・ショック以降の為替環境の激変や、当時の列島改造ブームで過熱していた景気の反動もありました。
言い換えれば、オイルショックは「健康な経済にいきなり一撃を加えた」というより、「すでに歪みやバブル的な過熱を抱えていた経済に、急ブレーキをかけた」出来事だったと見るほうが実態に近いのです。この視点は、相場を読むうえで非常に重要です。同じ原油高でも、株式市場がもともと割高で過熱しているときに来るのか、それとも落ち着いているときに来るのかで、ダメージの大きさはまるで変わってくるからです。
何が買われ、何が売られたのか
オイルショックのような局面では、すべての株が一律に下がるわけではありません。資金は逃げ場を求めて動き、相対的に強いセクターと弱いセクターがはっきり分かれます。
1973年に何が起きたかというと、コモディティ、つまり実物資源の価格高騰を背景に、石油株や金鉱株が大きく買われる「大相場」となりました。原油が上がれば石油会社が儲かる、インフレが進めば実物資産である金が見直される、という連想です。この発想自体は、いまの私たちにも直感的に理解できるものでしょう。
ここで「なぜインフレのときに金や実物資産が買われるのか」を少し補足しておきます。インフレとは、見方を変えれば「お金の価値が下がること」です。同じ1万円で買えるモノが減っていくのですから、現金や、現金に近い性質を持つ資産は、持っているだけで実質的な価値が目減りしていきます。一方、金や原油、不動産といった実物資産は、モノそのものですから、物価が上がればその価格も上がりやすく、お金の価値の目減りに対する防御の役割を果たすと考えられています。だからこそインフレ局面では、紙の上の将来の期待よりも、いま手元にある実物の価値が見直され、資金が実物資産やそれに関連する株へと流れ込みやすくなるのです。この「実物への回帰」という大きな潮流こそ、オイルショック相場でセクターの明暗を分ける根本にある力です。
ところが、話はここで終わりません。高インフレがもたらした不景気が深刻化し、1974年に弱気相場がいっそうひどくなると、それまで買われていた石油株や金鉱株ですら値を消していきました。当時のアメリカ市場では、1929年の暗黒の木曜日以来とも言われる、「何を買っても儲からない相場」へと突き進んでいったのです。
この事実は、原油高で恩恵を受けるはずのセクターに投資する際の、最大の注意点を示しています。それは「原油高の恩恵」と「景気後退の打撃」は別物であり、後者が前者を飲み込むほど大きくなると、資源関連株さえも下落を免れない、ということです。この1973年から1974年にかけての教訓は、後の「共通の法則」のところで改めて取り上げます。
2022年・令和のオイルショックで起きたこと
きっかけはウクライナ侵攻、原油は一時130ドル超へ
時計の針を半世紀進めます。2022年2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻しました。これに対し、欧州や米国を含む西側諸国は、石油を含むエネルギーや金融、技術などをめぐる対ロシア制裁に踏み切ります。
ここで市場が恐れたのは、世界有数の産油国であるロシアからの石油供給が、報復措置として削減されるのではないか、という懸念でした。実際、2022年3月には国際エネルギー機関、いわゆるIEAが、ロシアの石油生産が日量300万バレル減少するという見通しを示しています。この300万バレルという数字は、当時のロシアの欧州・米国・日本向け輸出量の合計、あるいは日本の一日の消費量にほぼ匹敵する規模で、国ひとつ分の石油が市場から消えかねないことを意味していました。
2022年の年初、原油価格、ここでは米国の指標であるWTIは1バレルあたり80ドル前後で推移していました。それが供給不安の高まりとともに急騰し、3月には米国のWTIも欧州の指標であるブレントも、取引時間中に1バレル130ドルを超える水準まで駆け上がりました。これは2008年に150ドル近辺の史上最高値をつけて以来の高値です。当時の市場では「150ドルを突破して史上最高値になる」という観測すら、ごく当たり前のように語られていました。
そして2022年は、上がっていたのは原油だけではありませんでした。ロシアは天然ガスの主要な供給国でもあり、とくに欧州は天然ガスの多くをロシアからのパイプライン供給に頼っていたため、ガス価格も歴史的な高騰を見せ、欧州はエネルギー危機と呼べる状況に陥りました。さらに、新型コロナからの経済再開にともなう需要の急回復に、世界の物流網の混乱が重なり、原油以外の幅広い品目でも物価が押し上げられていました。つまり2022年のインフレは、原油高を中心としながらも、ガス、供給網の目詰まり、繰り越された需要といった複数の要因が同時に作用した、複合的なものだったのです。この点は、原油だけを見ていては全体像をつかみきれない、という難しさを物語っています。
この2022年の石油市場の動きは、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構、JOGMECが詳しく振り返っています。
政府機関の公式な記録としては、資源エネルギー庁のエネルギー白書2022が、価格推移と各国の制裁措置を体系的にまとめています。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-3-2.html
中東をはじめとする各地域の油価変動が世界と日本に与えた影響については、ジェトロのレポートも参考になります。
1973年とは「質」が違った供給ショック
ここで、1973年との違いを意識しておくことが、相場理解の解像度を上げてくれます。
1973年のショックは、産油国が結束して意図的に「価格を上げ、供給を絞る」という、明確な政治的意思によるものでした。一方、2022年のショックは、戦争と制裁という地政学的な混乱の結果として、「供給が削減されるかもしれない」という懸念が価格を押し上げた側面が強いものでした。
また、日本の対応にも大きな違いがありました。2022年には、政府が燃料の元売り会社に対する補助金制度を導入し、ガソリンの小売価格の上昇を一定程度抑え込みました。この補助金は当初、レギュラーガソリンの全国平均価格が1リットル170円を超える部分について最大5円までとされていましたが、原油高が続いたため、政府は補助の上限を最大25円まで引き上げています。海外の原油高が、ストレートに国内の小売価格に跳ね返るのを和らげる装置が用意されていたわけです。
この補助金政策の評価や、原油高が日本経済に与える影響の試算については、野村総合研究所のエコノミストによる分析が参考になります。
そして、もうひとつ大きな違いがあります。2022年の原油価格は、130ドルという高値をつけたあと、世界経済の減速懸念などから次第に落ち着いていきました。1973年のように高値が長期間にわたって居座り続けたわけではなく、比較的早い段階で価格は反落しています。この後の見通しについては、RIETIのコラムが当時の状況をよく伝えています。
株価はどう動いたのか、そしてセクター間の明暗
2022年の株式市場は、原油高そのものよりも、原油高がもたらしたインフレと、それを抑え込むための急激な金融引き締めによって大きく揺さぶられました。やはりここでも「原油高 → インフレ → 金融引き締め → 株安」という、1973年とそっくりの連鎖が働いています。
米国を見てみましょう。代表的な株価指数であるS&P500種指数は、2022年に約19パーセントの下落となりました。配当を含めたトータルリターンでもマイナス18パーセント程度です。ハイテク株中心のナスダック総合指数にいたっては、27パーセント近い大幅な下落を記録しました。金利上昇は、将来の利益を当て込んで買われていた成長株、いわゆるグロース株のバリュエーションを直撃したのです。
ここで、この記事の核心とも言える、きわめて示唆に富むデータを紹介します。2022年のS&P500を構成する11のセクターのうち、年間で上昇したのは、なんとエネルギーのたった1セクターだけでした。しかもその上昇率は約59パーセントという突出したものでした。残りの10セクターはすべて下落し、最も悪かったコミュニケーションサービスは約40パーセントの下落です。市場全体が沈むなかで、原油高の恩恵を受けるエネルギーだけが、独り気を吐いたのです。
このセクター別のデータは、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのマーケット分析レポートで確認できます。
https://www.spglobal.com/spdji/jp/commentary/article/market-attributes-sp-500/
そして見逃せないのが、日本株の相対的な底堅さです。2022年の日経平均株価は、年末の終値ベースで前年末比およそマイナス9.4パーセントとなり、4年ぶりの下落となりました。下落は下落ですが、19パーセント下げたS&P500や27パーセント近く下げたナスダックと比べると、はるかに傷は浅かったと言えます。
なぜ日本株は相対的に持ちこたえたのでしょうか。最大の理由は、各国の中央銀行が利上げに突き進むなか、日本銀行だけが金融緩和を維持し、顕著な金利上昇が起きなかったことにあります。金利が上がらなければ、グロース株への打撃も限定的で済みます。同時に、急激な円安が進み、円相場は一時1ドル151円台という、約32年ぶりの安値をつけました。輸出企業にとっては円安が追い風となり、これも日本株を下支えした面があります。
2022年の日本株が他国に比べて調整幅が小さかったという点は、先ほどの野村総研の年末総括でも指摘されています。米国株との連動性と、それでも傷が浅かった理由を理解するうえで、2022年12月時点の市場分析として三井住友DSアセットマネジメントのレポートも示唆に富みます。
全体相場が下落するなかで、どんな銘柄が逆行高を演じたのかについては、株探が年末にまとめた2022年の値上がり率ランキングが具体的でおもしろい資料です。日経平均が前年末比マイナス9.4パーセントだったという数字も、ここで確認できます。
二つのデータが教えてくれる、共通の法則
ここまで1973年と2022年を別々に見てきましたが、いよいよ二つを重ね合わせてみます。半世紀を隔てた二つの相場から浮かび上がってくる、いくつかの「法則のようなもの」を整理しておきましょう。
まず1973年と2022年を一枚の絵にする
法則を語る前に、二つの相場の主な数字と特徴を並べて眺めてみます。共通点と相違点が、くっきりと見えてきます。
きっかけについては、1973年は第四次中東戦争を背景にした産油国による意図的な減産と価格引き上げ、2022年はロシアのウクライナ侵攻と対ロシア制裁にともなう供給不安でした。
原油価格の動きは、1973年が3ドル程度から約4倍へと3カ月で急騰し、その高値が長く居座ったのに対し、2022年は80ドル前後から130ドル超へ駆け上がったあと、比較的早く反落していきました。
インフレの大きさは、1973年から1974年の日本で消費者物価が前年比約23パーセントという「狂乱物価」だったのに対し、2022年は日本の物価上昇が比較的おだやかな水準にとどまり、米国でも約9パーセントと、1970年代ほどの暴走には至りませんでした。
金融政策は、1973年が公定歩合を9パーセントまで引き上げる強烈な引き締めだったのに対し、2022年は米国が大幅な利上げに動く一方、日本銀行は金融緩和を維持するという、日米で対照的な対応になりました。
株価への影響は、1973年から1974年の日経平均がおよそ4割近く下げたのに対し、2022年の日経平均は約9パーセントの下落にとどまりました。一方の米国は2022年にS&P500が約19パーセント下落しています。
セクターの明暗は、両者ともよく似ています。1973年は石油株や金鉱株が物色され、2022年はS&P500でエネルギーセクターだけが上昇しました。インフレ局面で実物資産や資源が見直されるという点で、二つの相場は同じ顔を見せています。
こうして並べると、「原油高がインフレを呼び、それが金融政策を通じて株価に波及する」という骨格は両者で完全に共通している一方、インフレの暴走の度合いと、各国の金融政策の対応によって、株価のダメージの大きさには大きな差が生まれた、という構図が読み取れます。この骨格と差異を頭に入れたうえで、いよいよ具体的な法則に進みます。
法則その一、原油高は「インフレと金利」を通じて株価に効いてくる
最も重要な法則がこれです。原油高は、それ自体が直接株価を下げるというよりも、インフレと金利という二段階の経路を通じて株式市場に影響します。
原油が上がる、するとあらゆるモノやサービスのコストが上がってインフレになる、インフレを抑えるために中央銀行が利上げをする、金利が上がると企業の借入コストが増えたり、将来の利益の価値が割り引かれたりして株価が下がる。1973年も2022年も、この流れがそのまま当てはまります。
だからこそ、原油高のニュースを見たときに本当に注目すべきは、原油価格そのものよりも、その先にある「インフレ率はどこまで上がるのか」「中央銀行はどれだけ利上げをするのか」という点なのです。実際、2022年に日本株が米国株より傷が浅かった決定的な理由は、日本銀行が利上げをしなかった、つまり「原油高 → インフレ」までは進んでも「金利上昇」の段階が抑えられたことにありました。原油高そのものは日米どちらにも降りかかっていたのに、結果が大きく分かれた。このことが、金利という変数の重さを何より雄弁に物語っています。
法則その二、グロース株は弱く、資源・エネルギー・割安株は相対的に強い
二つの相場に共通するもうひとつのパターンが、セクターと株のタイプによる明暗です。
金利が上がる局面では、将来の大きな成長を期待して買われていたグロース株が真っ先に売られます。2022年にナスダックが大きく下げたのも、これが理由です。一方で、原油高そのものの恩恵を受けるエネルギーや資源関連、そして「いま」の利益や資産に裏打ちされた割安株、いわゆるバリュー株は、相対的に強く推移しやすくなります。
2022年のS&P500でエネルギーだけが上昇したという事実、そして1973年に石油株や金鉱株が大相場になったという事実は、まさにこのパターンの典型例です。インフレ局面では、紙の上の期待よりも、目に見える実物の価値が見直される。この大きな潮目の変化を、二つの相場はそろって教えてくれています。
この「2022年は1973年に酷似している」という構図そのものは、当時のダイヤモンドZAiの記事が、インフレと利上げでグロース株が下落し石油株と金鉱株が上昇したという観点から、鋭く指摘していました。
法則その三、ただし景気後退が深まると、資源株すら無傷ではいられない
ここが、初心者が最も見落としやすく、そして最も大切なポイントです。
「インフレなら資源株を買えばいい」というのは、半分正しくて半分危険な考え方です。なぜなら、1973年の続きである1974年に何が起きたかを思い出してほしいからです。インフレを抑えるための金融引き締めが景気を冷やし、不況が本格化すると、それまで買われていた石油株や金鉱株でさえも値を消し、「何を買っても儲からない相場」になっていきました。
つまり、原油高局面の投資には二つの異なる力が働いています。ひとつは「原油高でこのセクターは儲かる」という追い風。もうひとつは「景気が冷えて、あらゆる企業の業績が悪くなる」という向かい風です。相場の初期には追い風が勝ち、資源株が買われます。しかし、引き締めが効いて景気後退が深刻になると、向かい風が追い風を上回り、資源株も巻き込まれて下落する局面が訪れうるのです。
このことは、「原油高だから資源株を買って持ちっぱなしにすれば安心」という単純な戦略が通用しないことを意味します。恩恵を受けるセクターであっても、景気サイクルのどの局面にいるのかを意識し、出口、つまり「いつ利益を確定するか」をあらかじめ考えておくことが、過去のデータからの何よりの教訓と言えます。
法則その四、同じ原油高でも「相場の前提条件」で結果が変わる
最後の法則は、これまでの三つを束ねるものです。同じ原油高というショックでも、それが訪れたときの「相場の前提条件」によって、結果はまるで変わってきます。
1973年の日本株が約4割も下げた背景には、すでにバブル的に過熱していた相場や、為替環境の激変という、原油高以外の歪みが重なっていました。一方、2022年の日本株が約9パーセントの下落で済んだ背景には、日本銀行が金融緩和を続けたという政策環境と、円安という追い風がありました。
だからこそ、原油高のニュースに接したときは、「原油が上がった、だから株は下がる」と短絡的に決めつけるのではなく、いまの株式市場が割高なのか割安なのか、中央銀行はどう動きそうか、為替はどちらに振れそうか、という周辺条件をあわせて確認する姿勢が欠かせません。日経平均が過去70年でどんなショックをくぐり抜けてきたのかを俯瞰しておくと、こうした相対的な見方が身につきやすくなります。長期の歴史を振り返るには、アセットマネジメントOneの日経平均70年史の解説が便利です。
原油高の「勝ち組」と「負け組」を業種で考える
法則を理解したところで、もう一歩実践的に踏み込んでみます。原油高は、すべての業種に同じように作用するわけではありません。原油を「売る側」に近い業種は恩恵を受けやすく、原油を「使う側」「コストとして負担する側」の業種は打撃を受けやすい。この単純な構図を頭に入れておくと、自分の保有している株が原油高にどう反応しそうかを、ざっくり見立てられるようになります。
恩恵を受けやすい側、いわば勝ち組の代表は、原油やガスを掘って売る資源開発会社、石油元売り、そして資源を扱う総合商社です。資源価格の上昇がそのまま売上や利益の増加につながりやすいからです。エネルギー価格に連動する一部の海運や、石炭などの代替燃料を扱う会社も、ここに含まれることがあります。2022年のS&P500でエネルギーセクターだけが上昇したのは、この勝ち組の典型的な動きでした。
一方、打撃を受けやすい側、いわば負け組には、燃料費が経営を直撃する航空会社や陸運・海運などの運輸業、燃料コストの比率が高い電力会社、原油を原料とする化学メーカー、そして原材料や輸送費の上昇に苦しむ多くの製造業が含まれます。さらに、物価高で家計が引き締まれば、消費者がお金を使わなくなり、小売や外食といった内需関連にも間接的な逆風が及びます。
ただし、ここでも注意が必要です。負け組とされる業種でも、コスト上昇を製品価格にうまく転嫁できる強い会社は、打撃を和らげることができます。逆に、勝ち組とされる業種でも、法則その三で見たように、景気後退が深刻になれば需要減で苦しむことがあります。業種という大づかみの見立ては出発点として有効ですが、最後は一社一社の事情を見ていく必要がある、ということです。だからこそ、次の章で紹介する銘柄も、ぜひご自身で中身を確かめてみてほしいのです。
個人投資家が原油高局面でウォッチすべき指標
ここまでの法則を、日々のチェックに落とし込んでみましょう。原油高が騒がれ始めたとき、個人投資家が定点観測しておくと有益な指標を整理します。いずれも難しい計算は不要で、ニュースや証券会社のアプリで日々確認できるものばかりです。
・WTI原油先物価格とブレント原油価格。原油高の「震源」そのものです。前者は米国、後者は欧州・国際取引の代表的な指標で、両者が連動して上がっているかを見ます。
・国内のレギュラーガソリン価格。原油高がどれだけ国内の生活コストに転嫁されているかの、最も身近なバロメーターです。補助金の動向とあわせて見ると、政策の効き具合まで読めます。
・消費者物価指数、いわゆるCPI。原油高がインフレへと波及しているかを測る、最重要の指標です。日本と米国の両方を見ておくと、金融政策の方向性を予想しやすくなります。
・政策金利と中央銀行の発言。法則その一で見たとおり、株価への最終的な効き方を左右する変数です。利上げに前のめりなのか、慎重なのかで、相場の景色は一変します。
・為替レート。とくにドル円です。円安は輸出企業の追い風となり、原油高の打撃を一部相殺します。原油高と円安が同時に来ているのか、片方だけなのかで、日本株への影響度が変わります。
これらをまとめて眺めると、「原油が上がっている、CPIも上がってきた、しかし日銀はまだ動かない、円安も進んでいる」といった具合に、いまがどの局面なのかを自分なりに地図に落とし込めるようになります。この地図を持っているかどうかが、ニュースに振り回される投資家と、一歩引いて構えられる投資家との分かれ目になります。
オイルショック相場で個人投資家がやりがちな三つの失敗
二つの相場の教訓は、裏を返せば「やってはいけないこと」のリストでもあります。荒れ相場で個人投資家が陥りやすい失敗を、三つに絞って確認しておきます。
一つ目は、底値での投げ売りです。原油高でインフレが進み、株価が大きく下げる局面では、不安に耐えきれず、最も安いところで保有株を手放してしまう行動が起きがちです。1973年から1974年のように下落が長引くと、この恐怖は何度も襲ってきます。しかし、長期的な視点で見れば、暴落の最中に冷静さを欠いて売ることは、損失を確定させる行為になりやすいものです。あらかじめ「どこまで下がったら何をするのか」を決めておくことが、感情的な投げ売りを防ぐ盾になります。
二つ目は、出遅れた高値づかみです。これは一つ目と正反対の失敗です。エネルギーや資源株が大相場になっていると報じられると、すでに大きく上がりきったあとから飛び乗ってしまうことがあります。1973年に石油株や金鉱株が買われたものの、1974年に景気後退が深まると総崩れになったという事実を思い出してください。話題になってから慌てて買うと、ちょうど天井をつかまされる危険があるのです。テーマが過熱しているときほど、すでに株価にどれだけの期待が織り込まれているかを冷静に見極める必要があります。
三つ目は、出口戦略の欠如です。これが、過去のデータが最も強く戒めている失敗かもしれません。「原油高だから資源株を買えば安心」と考えて買ったまま、いつ売るかをまったく考えていないと、追い風が向かい風に変わった瞬間に対応できなくなります。原油高の恩恵は永遠には続かず、景気後退が深まれば資源株すら下落しうる。だからこそ、買う前に「どうなったら利益を確定するのか」「どうなったら撤退するのか」を決めておくことが欠かせません。入口だけでなく出口まで設計して初めて、戦略と呼べるのです。
これら三つの失敗に共通するのは、いずれも「事前にルールを決めていなかったこと」が原因になっている点です。相場が荒れてから考え始めるのではなく、平時のうちに自分なりの行動基準を持っておく。それが、オイルショックのような試練を生き延びるための、最も地味で最も確実な備えになります。
原油高という切り口で探す、あまり知られていない関連銘柄5選
ここからは、これまでの議論を踏まえつつ、「原油高やエネルギー・資源高という切り口で銘柄を探すと、こんな会社が見つかる」という発掘の楽しみを味わっていただくためのコーナーです。
あえて、トヨタやNTTのような誰もが知る大型株や、原油高関連で真っ先に名前が挙がるINPEXやENEOSのような本命どころは外しました。少し視点をずらすと、エネルギーや資源とがっちり結びついた、知る人ぞ知る会社がいくつも見えてきます。それぞれにみんかぶのページのURLを添えますので、気になった会社は、業績や株価チャート、配当の推移などをご自身の目で深掘りしてみてください。銘柄を「自分で見つけて、自分で調べる」という体験そのものが、投資の上達につながります。
なお、はじめに大切なお断りをしておきます。ここで取り上げる銘柄は、購入を推奨するものでは一切ありません。前章で見たとおり、原油高は必ずしも関連株の上昇を保証しませんし、1974年のように景気後退が深まれば資源関連株も下落しうることは、データが示すとおりです。投資の最終判断は、必ずご自身の責任で行ってください。筆者は投資助言を行う立場にはなく、この記事は教育・情報提供を目的としたものです。
一社目、石油資源開発(1662)。原油・天然ガスの「上流」を担う純粋プレーヤー
最初は、原油高の恩恵という意味で最も直球の一社です。石油資源開発は、原油や天然ガスの探鉱、開発、生産を手がける資源開発の大手で、国内では天然ガスのインフラ事業も展開しています。
この会社の特徴は、原油や天然ガスを「掘って売る」という、いわゆる上流ビジネスを本業にしている点にあります。原油価格が上がれば売上と利益が増えやすく、逆に下がれば業績が圧迫されるという、価格連動の構造がきわめてわかりやすい会社です。INPEXという有名な同業がいるため知名度ではやや控えめですが、純粋に原油・ガス価格の動きと業績の連動を観察したい人にとっては、格好の教材になります。財務面でも自己資本比率が高く、ニュースでは中東情勢が緊迫すると関連株として注目される場面が目立ちます。
二社目、K&Oエナジーグループ(1663)。千葉の天然ガスと、世界有数のヨウ素
二社目は、ぐっとユニークな会社です。K&Oエナジーグループは、千葉県を地盤とするエネルギー会社で、国内有数の埋蔵量を誇る千葉県産の天然ガスを開発・販売しています。関東天然瓦斯開発と大多喜ガスが統合して誕生した会社です。
おもしろいのは、天然ガスの生産にともなって出てくる地下水、いわゆるかん水から、ヨウ素という資源を取り出して生産している点です。このヨウ素の生産は世界有数の規模を誇り、医薬品や工業用途など幅広い分野で使われています。つまりこの会社は、エネルギー価格と、ヨウ素という資源価格の両方をにらむことができる、二つの顔を持っているのです。エネルギー一辺倒ではない資源企業として、原油高局面の銘柄研究に厚みを与えてくれる存在です。増配を続けている点も、長期投資家には気になるところでしょう。
三社目、住石ホールディングス(1514)。石炭という「もうひとつの化石燃料」
三社目は、石炭という切り口です。住石ホールディングスは、もとをたどれば住友石炭鉱業という社名だった会社で、現在は豪州炭などの石炭の輸入・販売を主力としています。
原油高を語るとき、つい石油ばかりに目が向きがちですが、エネルギー価格はしばしば連動して動きます。原油が上がれば、代替燃料である石炭の需要や価格も意識されやすくなります。実際にこの会社は、中東情勢の緊迫やエネルギー価格の上昇が報じられると株価が大きく反応し、過去にはストップ高を記録する場面もありました。資源・エネルギー価格に対する感応度の高さは、ある意味で原油高相場の「リトマス試験紙」のような銘柄とも言えます。財務面では自己資本比率が極めて高く、保有資産の手厚さも特徴です。石油以外の化石燃料という視点を持つことで、エネルギー相場の見え方が立体的になります。
四社目、飯野海運(9119)。原油を「運ぶ」側から相場を見る
四社目は、視点をがらりと変えて「物流」です。飯野海運は、原油タンカーやケミカル船、ガス船、ばら積み船を運航する中堅の海運会社です。
原油そのものを掘ったり売ったりするのではなく、それを世界中へ運ぶという役割に注目すると、また違った景色が見えてきます。原油の荷動きや、中東情勢、タンカーの運賃市況によって業績が左右される会社で、地政学リスクが高まる局面ではしばしば物色の対象になります。さらにこの会社は、東京の内幸町に賃貸オフィスビルを保有しており、不動産事業からの安定的な収益という、海運市況とは異なる収益の柱も持っています。海運という景気敏感な事業と、不動産という安定事業の組み合わせは、企業のリスク分散という観点でも勉強になります。原油を「運ぶ側」から相場を眺める視点を提供してくれる一社です。
五社目、三谷商事(8066)。燃料を「届ける」川下と、意外な多角化
最後は、エネルギーの川下、つまり消費者や企業に燃料を届ける側に近い会社です。三谷商事は、1914年創業の福井発の独立系商社で、複数の事業を組み合わせた多角的な経営をしています。
この会社の柱は大きく三つあります。ひとつはセメントや生コンクリートといった建設関連の事業で、この分野では国内トップ級の存在です。ふたつ目が、燃料販売を中心とするエネルギー事業。そして三つ目が、情報システム関連の事業です。風力発電も手がけており、エネルギーの川下と、再生可能エネルギーの両面に関わっています。原油高がガソリンや燃料の販売価格に影響する一方で、複数事業を抱えることで業績の振れを抑えているという構造は、企業分析の好例です。財務は良好で、増収増益の基調が続いている点も、地味ながら堅実な印象を与えます。一見すると地味な商社が、実はエネルギー流通の一翼を担っているという発見は、まさに銘柄発掘の醍醐味でしょう。
リスクと心構え、そしてまとめ
ここまで、1973年と2022年という二つのオイルショックを、データを手がかりに振り返ってきました。最後に、これからの相場と向き合うための心構えを、いくつか確認して締めくくります。
まず大前提として、過去のパターンは未来を保証しません。1973年と2022年が似ていたからといって、次の原油高がまったく同じ経過をたどるわけではありません。歴史は繰り返すこともあれば、韻を踏むだけのこともあり、ときにまったく新しい展開を見せます。データから学べるのは「確実な予言」ではなく、「起こりやすいパターンと、注意すべき分岐点」です。この区別を持っておくことが、データを使ううえでの最低限の作法です。
そのうえで、この記事で見てきたことを、三つに凝縮しておきます。ひとつ目は、原油高は原油価格そのものより、インフレと金利を通じて株価に効いてくるということ。だからこそ、原油だけでなく、CPIと中央銀行の動き、そして為替をセットで見る必要があります。ふたつ目は、原油高局面ではグロース株が弱く、エネルギーや資源、割安株が相対的に強くなりやすいということ。2022年にエネルギーセクターだけが上昇したのは、その象徴でした。三つ目は、それでも景気後退が深刻になれば、資源株すら無傷ではいられないということ。1974年の「何を買っても儲からない相場」は、その厳しい現実を教えてくれます。
原油高は、投資家にとって試練であると同時に、相場の構造を学ぶ絶好の機会でもあります。市場全体が下げるなかでも、どこかに相対的に強い場所があり、どこかに弱い場所がある。その明暗を生んでいるメカニズムを理解しようとする姿勢こそが、長く市場と付き合っていくうえでの財産になります。
もうひとつ、二つの相場が静かに教えてくれることがあります。それは、ひとつのシナリオに全てを賭けないことの大切さです。1973年から1974年にかけては、原油高の恩恵を受けるはずだった資源株すら最後には下落しました。これは「インフレが来る、だから資源株に集中投資する」という一点賭けが、いかに危ういかを示しています。同じ原油高でも、相場の前提条件しだいで結果は変わり、しかもその前提条件を完璧に読み切ることは誰にもできません。だからこそ、値動きの性質が異なる資産や銘柄に資金を分けておくことが、想定外の展開に対する保険になります。どの局面が来ても致命傷を負わないように構えておくこと。派手さはありませんが、これこそが荒れ相場を生き抜いてきた投資家たちが共通して大切にしてきた知恵です。
そして何より、本記事で取り上げた銘柄をきっかけに、ぜひご自身でみんかぶなどの情報源を使って、業績や財務、株価の歴史を調べてみてください。誰かに教えられた銘柄を買うのではなく、自分の手で会社を発掘し、納得して向き合う。その地道なプロセスの積み重ねが、原油高のような荒れ相場を、慌てずに乗り切る力を育ててくれるはずです。
最後に改めてお伝えします。本記事は教育および情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあり、最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。
過去のを“買い”と見るか“様子見”と見るか、判断の分かれ目はどこにあるんでしょうか。
決算と需給だけでなく、オイルショック相場の流れがどう変わるか。そこを見ないと判断を誤ります。
| セクション | 本記事で扱うポイント |
|---|---|
| そもそも「オイルショック」とは何を指すのか | 需給と中期見通しを確認 |
| 原油価格とインフレの基礎知識 | リスクと割安性をチェック |
| 原油価格を動かす四つの力 | 投資判断の前提条件を点検 |
| なぜ原油高はインフレに「直結」するのか | 関連銘柄との比較で位置付け |
| 1973年・第一次オイルショックを徹底解剖する | 次の決算で確認すべき指標 |
| 何が、どんな順番で起きたのか | 構造と業績の関係を整理 |


















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