- スーパーの精肉コーナーで起きている「静かな異変」
- 「物価の優等生」が優等生でなくなった日
- なぜ、鶏もも肉はここまで値上がりしたのか
- 鶏肉は「氷山の一角」にすぎない
スーパーの精肉コーナーで、なんとなく感じている違和感はありませんか。「あれ、鶏もも肉ってこんなに高かったっけ」という、あの感覚です。
長らく「安くて家計の味方」だったはずの鶏もも肉が、いつの間にか100グラムあたり150円を超えるのが当たり前になりました。一見すると、たった数十円の話です。けれども、この数十円の裏側には、私たちの預金通帳の数字をじわじわと痩せ細らせ、さらには株式市場の値動きにまで影を落としている、ある大きな力が隠れています。
それが、この記事のテーマである「見えないインフレ」です。
ニュースで報じられる派手な値上げではなく、気づかないうちに進行する物価の上昇。それは家計だけでなく、私たちの資産運用、とりわけ株式投資の成績にも静かに、しかし確実に影響を与えています。
この記事では、鶏もも肉という身近な食材を入り口にして、インフレの正体を解き明かしていきます。そのうえで、「インフレに強い企業とはどんな会社なのか」という視点から、世間ではあまり知られていない注目銘柄を5つご紹介します。トヨタやNTTのような誰もが知る大型株ではなく、日々の食卓の裏側でしっかりと利益を稼いでいる「隠れた実力企業」を、一緒に発掘していきましょう。
なお、この記事は投資の参考情報を提供するものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で行っていただきますよう、はじめにお伝えしておきます。
スーパーの精肉コーナーで起きている「静かな異変」
「物価の優等生」が優等生でなくなった日
まずは事実から確認していきましょう。2026年5月時点で、全国のスーパーで売られている鶏もも肉の平均価格は、100グラムあたりおよそ154円から157円という水準にあります。これは平年と比べて14パーセントほど高い数字です。
少し時間をさかのぼってみると、その変化の大きさがよくわかります。鶏もも肉100グラムの価格は、2019年頃には130円台前半でした。それが2024年の夏あたりから上昇基調に入り、2025年の終わり頃からは150円台に乗せたまま、下がる気配を見せていません。コロナ禍前と比べると、価格はおよそ1.16倍にまで膨らんでいる計算になります。
鶏肉100グラムの価格推移については、こちらのサイトで長期のデータを確認することができます。
「たかが20円から30円の値上がりでしょう」と思われるかもしれません。けれども、鶏肉は卵や豆腐と並んで、家計を支える代表的な安いタンパク源でした。その鶏肉が「安い肉」ではなくなりつつあるという事実は、私たちの食生活の前提が崩れ始めていることを意味しています。
実際、価格上昇を受けて、もも肉から比較的割安なむね肉や手羽元へ切り替える家庭が増えています。むね肉は100グラムあたり100円前後、手羽元は70円から80円程度と、もも肉に比べればまだ手が届きやすい価格帯です。私たちは無意識のうちに、財布の中身に合わせて食べるものを変えはじめているのです。
同じことは、卵にも起きています。卵は戦後の日本で長らく「物価の優等生」と呼ばれ、価格がほとんど変わらない代表的な食材でした。ところが近年は、鳥インフルエンザの流行や飼料高の影響で、その卵までもがたびたび値上がりするようになりました。安いタンパク源の代表格だった鶏肉と卵が、そろって値上がりしている。この事実こそが、今回の物価上昇が一過性のものではなく、構造的なものであることを物語っています。
なぜ、鶏もも肉はここまで値上がりしたのか
ここで投資家として大切なのは、「値上がりした」という現象だけでなく、「なぜ値上がりしたのか」という構造を理解することです。原因がわかれば、どんな企業がその波を受け、どんな企業がその波を味方につけているのかが見えてきます。
鶏肉価格の上昇には、大きく分けて4つの要因が絡み合っています。
1つ目は、飼料コストの高騰です。鶏を育てるには大量のエサが必要ですが、国内で消費されるトウモロコシのほぼ100パーセントは輸入に頼っています。飼料費は養鶏業者の生産コストの60パーセントから70パーセントを占めるとされており、エサの値段が上がれば、それはそのまま鶏肉の原価に跳ね返ります。
2つ目は、円安です。日本は鶏肉の3割強をブラジルやタイなどから輸入しています。1ドルが130円から155円という円安水準が続いたことで、輸入コストが恒常的に上昇しました。輸入品が高くなれば、国産品の価格もそれに連動して押し上げられます。
3つ目は、鳥インフルエンザです。感染が広がるたびに大量の鶏が処分され、供給が一時的に細ります。供給が減れば価格が上がるのは、需給の原則どおりです。
そして4つ目が、人件費や物流費、エネルギー価格の上昇です。鶏を育て、処理し、店頭に並べるまでのあらゆる工程でコストが膨らんでおり、それが最終的な小売価格に積み上がっています。
これら複数の要因が同時に重なっているため、専門家の多くは、鶏肉の高値はしばらく続くと見ています。鶏肉価格の背景については、こちらの解説記事が詳しく整理しています。
鶏肉は「氷山の一角」にすぎない
ここまで鶏肉の話をしてきましたが、もうお気づきかもしれません。飼料高、円安、エネルギー高、人件費高という要因は、何も鶏肉に限った話ではないのです。
これらは、ほとんどすべての食品、いや、ほとんどすべてのモノやサービスに共通してのしかかっているコストです。鶏もも肉の値札は、日本経済全体で進む物価上昇という巨大な氷山の、水面から見えているほんの一角にすぎません。
その全体像を数字でとらえるための指標が、総務省が毎月発表している消費者物価指数、いわゆるCPIです。私たちがふだん購入するおよそ600種類のモノやサービスの価格を定点観測し、物価の動きを示しています。CPIの最新データは、総務省統計局のサイトで誰でも確認できます。
2026年4月の全国の消費者物価指数を見ると、総合指数は前年同月比でプラス1.4パーセント、生鮮食品を除く総合指数も同じくプラス1.4パーセント、生鮮食品とエネルギーを除く「コアコア」と呼ばれる指数はプラス1.9パーセントとなっています。
数字だけ見ると「1パーセント台か、思ったほどではないな」と感じるかもしれません。けれども、これは前年からの伸び率です。物価上昇は毎年積み重なっていくものなので、過去5年間を通してみると、日本の物価はおよそ12パーセント上昇したことになります。100万円で買えていたものが、今では112万円出さないと買えない、ということです。
世界に目を向けると、日本の物価上昇は、欧米諸国が経験した急激なインフレに比べれば、まだ緩やかなほうだとされています。だからこそ、多くの日本人は長らくデフレ的な感覚に慣れ親しんできました。けれども、その「ゆるやかさ」こそが、見えないインフレを見過ごしやすくしている一因でもあります。世界との比較を通じて日本のインフレを捉え直すには、こちらの記事が参考になります。
食料品に絞ると、上昇の体感はさらに強くなります。生鮮食品を除く食料品の価格は、一時は前年比で5パーセントから6パーセント台という高い伸びを示していました。直近では値上げのピークは越えつつあるとされていますが、それでも水準そのものが高止まりしていることに変わりはありません。物価の最新動向については、エコノミストによるこちらの分析が参考になります。
また、東京都区部のCPIは全国に先行して発表されるため、物価の先行きを占ううえで投資家がよくチェックする指標です。こうした経済指標のわかりやすい解説は、証券会社のメディアでも読むことができます。
鶏もも肉150円という小さな衝撃は、こうしてマクロ経済の大きな流れとつながっています。次の章では、この物価上昇のなかでも特に厄介な、「見えない」タイプのインフレに踏み込んでいきます。
「見えないインフレ」という言葉の本当の意味
ステルス値上げ(シュリンクフレーション)の仕組み
インフレには、わかりやすいものと、わかりにくいものがあります。
「値段が100円から120円に上がりました」というのは、わかりやすいインフレです。誰の目にも明らかで、消費者は「高くなったな」とすぐに気づきます。
一方で、近年あちこちで起きているのが、わかりにくいインフレです。その代表格が、「ステルス値上げ」、あるいは「シュリンクフレーション」と呼ばれる現象です。
シュリンクフレーションとは、縮小を意味する英語のシュリンクと、物価上昇を意味するインフレーションを組み合わせた言葉です。商品の価格は据え置いたまま、内容量やサイズをこっそり減らすことで、実質的に値上げを行う手法を指します。たとえば、100円で10個入りだったお菓子が、価格はそのままで9個入りに変わる、といった具合です。
レーダーに映らないステルス戦闘機のように、消費者に気づかれにくいことから「ステルス値上げ」と呼ばれています。この用語の意味については、証券会社の用語解説がコンパクトにまとまっています。
手口は内容量を減らすだけではありません。1袋120グラムだったお菓子が100グラムになる、箱入りアイスが6本から5本に減る、麺やスープの量がわずかに少なくなる、といった形で、私たちの「同じお金で買える量」は静かに目減りしています。
どんな商品がどれだけ減ったのかを記録している、有志によるデータベースも存在します。買い物のときの参考として、一度のぞいてみると驚くかもしれません。
なぜ企業は「こっそり」値上げするのか
ここで少し、企業の立場に立って考えてみましょう。なぜメーカーは、堂々と値上げをせず、こっそりと内容量を減らすのでしょうか。
理由はシンプルです。価格は、消費者がもっとも敏感に反応するポイントだからです。原材料費やエネルギー価格、人件費が上がり、メーカーとしては値上げをしたい。けれども、あからさまに値札を上げると、消費者が他社製品に逃げてしまい、売上が落ち込むリスクがあります。
そこで、価格やパッケージのデザインは変えずに、中身の量だけをそっと減らす。こうすれば、棚に並んだときの「見た目の価格」は変わらないため、消費者の抵抗感を抑えながら、実質的な値上げを実現できるというわけです。
つまりステルス値上げは、企業が「価格を上げる力」、すなわち後ほど詳しく説明する価格決定力をまだ十分に持てていないときに使われる、苦肉の策という側面もあります。ステルス値上げの背景や個人ができる対策については、銀行のコラムがファイナンシャルプランナーの視点でわかりやすく解説しています。
https://www.bk.mufg.jp/column/others/b0029.html
体感物価と公式統計の間にあるギャップ
ここで一つ、重要な注意点があります。
消費者物価指数のような公式統計は、できる限り内容量の変化も調整して計算されています。けれども、私たちが日々の買い物で感じる「体感の物価」と、統計上の数字との間には、どうしてもズレが生じがちです。
たとえば、月に5回買っているお菓子が20パーセント減量されたとします。すると、1年間では金額に換算しておよそ1万円から2万円分もの「見えない値上げ」を、知らないうちに負担していることになります。これは家計簿の「食費」の合計額だけを眺めていても、なかなか気づけません。なぜなら、支払った金額そのものは変わっていないからです。
各種の調査では、およそ9割の人が値上げを実感しているというデータもあります。多くの人が「なんとなく生活が苦しくなった」と感じているのは、決して気のせいではなく、こうした見えにくいインフレが積み重なった結果なのです。
「見えない」からこそ恐ろしい
見えないインフレが恐ろしいのは、痛みを感じにくいからこそ、対策が後手に回ってしまう点にあります。
激しい値上げであれば、人は危機感を持って節約や工夫を始めます。けれども、じわじわと進む見えないインフレは、ゆでガエルの寓話のように、気づいたときには相当のダメージが蓄積している、という事態を招きかねません。
そしてこの「気づきにくさ」は、家計だけの問題ではないのです。実は、私たちの資産運用、とりわけ株式投資の世界でも、まったく同じ構造の落とし穴が口を開けて待っています。
補足 ― 「良いインフレ」と「悪いインフレ」
ここで、投資家として身につけておきたい大切な区別をお伝えしておきます。それは、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある、ということです。
良いインフレとは、景気が拡大し、人々の所得が増え、需要の高まりによってモノの値段が上がっていく状態を指します。需要が引っ張る形で起きるため、企業の売上も伸び、賃金も上がり、株価にも追い風が吹きやすくなります。
一方の悪いインフレとは、原材料費やエネルギー価格の高騰、円安といった「コスト側」の要因で、無理やりモノの値段が押し上げられる状態を指します。需要が弱いまま価格だけが上がるため、家計は苦しくなり、企業も利益を削られやすくなります。今の日本で起きている食料品インフレは、円安と輸入コスト高に端を発する、どちらかといえば悪いインフレの色合いが濃いといえます。
ただし、ここが投資の面白いところなのですが、悪いインフレの局面であっても、すべての企業が等しく沈むわけではありません。コスト増を価格に転嫁できる強い企業は、悪いインフレのなかでも利益を伸ばし、株価を上げることができます。良いインフレか悪いインフレかという大きな環境を読みつつ、そのなかで勝てる企業を選ぶ。この二段構えの視点が、インフレ時代の投資の基本です。良いインフレと悪いインフレの考え方については、こちらの記事がわかりやすく整理しています。
https://www.am-one.co.jp/warashibe/article/chiehako-20230707-1.html
それでは、まず家計への影響を整理し、その後に株式市場への影響へと話を進めていきましょう。
インフレは、あなたの家計をこう蝕む
現金と預金は「安全」ではない
多くの人は、現金や預金を「もっとも安全な資産」だと考えています。株のように値下がりすることもなく、額面が減ることもない。たしかに、その通りです。
けれども、ここに見えないインフレの罠があります。預金の額面、つまり通帳に書かれた数字は減りません。減るのは、そのお金で買えるモノの量、すなわちお金の「実質的な価値」です。
インフレとは、モノやサービスの値段が上がること、裏を返せば、お金の価値が下がることです。物価が毎年2パーセント、3パーセントと上昇していくなかで、銀行預金の金利が0コンマ数パーセントにとどまっているとしたら、どうなるでしょうか。
通帳の数字は安全でも、その100万円で買える鶏もも肉やお菓子の量は、年々確実に減っていきます。これは、目に見えない形でじわじわと資産が目減りしているのと同じことなのです。インフレに対して、現金や預金はむしろ弱い資産だという事実は、しっかり押さえておきたいポイントです。インフレに強い資産・弱い資産の整理については、こちらの解説が体系的でわかりやすいです。
https://moneiro.jp/media/article/inflation-resistant-assets
「72の法則」で考える資産の目減り
お金の価値がどれくらいのスピードで目減りするのか。それを直感的に理解するための便利な計算法に、「72の法則」があります。
これは、72をある数値で割ると、お金がおよそ2倍になる、あるいは半分になるまでのおおよその年数がわかる、という経験則です。
たとえば、物価が毎年3パーセント上昇し続けると仮定しましょう。72を3で割ると24になります。つまり、約24年でお金の価値はおよそ半分になってしまう、という計算です。今100万円で買えるものが、24年後には200万円出さないと買えなくなる、と言い換えてもよいでしょう。
物価上昇が毎年2パーセントだとしても、72を2で割れば36年です。一生のうちに、お金の価値が半分になってしまう計算になります。
「自分が現役で働いている間はいいが、リタイア後の長い人生で、預金だけに頼っていて大丈夫だろうか」。この問いに正面から向き合うことが、インフレ時代の資産形成の出発点になります。
実質賃金の話 ― 給料が上がっても貧しくなる理由
家計を考えるうえで、もう一つ知っておきたいのが「実質賃金」という考え方です。
ニュースで「今年の賃上げ率は何パーセント」と報じられると、多くの人は素直に喜びます。けれども、本当に大切なのは、給料の額面、すなわち名目賃金がいくら上がったかではありません。給料の上昇率が、物価の上昇率を上回っているかどうかです。
仮に給料が3パーセント上がっても、物価が4パーセント上がっていたら、差し引きでマイナス1パーセント。つまり、給料は増えたのに、買えるモノの量はむしろ減っている、という事態が起こり得ます。これが、物価で調整した後の賃金、すなわち実質賃金が目減りしている状態です。
「働いて稼ぐ力」だけでインフレに勝ち続けるのは、簡単なことではありません。だからこそ、稼いだお金の一部に「自分の代わりに働いてもらう」仕組み、すなわち投資という選択肢が、いっそう重要になってくるのです。
インフレの影響は、すべての人に平等ではない
もう一つ、見落とされがちな視点をお伝えします。インフレの痛みは、すべての人に平等に降りかかるわけではない、ということです。
もっとも打撃を受けやすいのは、収入が増えにくく、資産の大半を現金や預金で持っている人です。たとえば、年金などの決まった収入で暮らす世代は、物価が上がっても収入が同じペースで増えるとは限りません。手元の預金の価値は目減りし、生活はじわじわと圧迫されていきます。
反対に、株式や不動産といった、物価とともに価値が上がりやすい資産を持っている人は、インフレの恩恵を受ける側に回ることができます。同じ国に暮らし、同じ物価上昇に直面していても、資産の持ち方ひとつで、結果は正反対になり得るのです。
これは、決して脅すための話ではありません。裏を返せば、今からでも資産の一部を、現金から「インフレに強い資産」へと振り向けていくことで、誰もが恩恵を受ける側に近づける、ということです。見えないインフレを正しく理解することは、その第一歩になります。
ここまでが、見えないインフレが家計に与える影響です。ここからはいよいよ、本記事のもう一つの主役である株式市場の話に入っていきます。
インフレは、株式市場も静かに蝕んでいる
名目リターンと実質リターンは別物
家計に「名目」と「実質」の区別があったように、投資のリターンにもまったく同じ区別が存在します。そして、ここを見落としている個人投資家は、驚くほど多いのです。
たとえば、ある年にあなたの株式ポートフォリオが5パーセント値上がりしたとします。「よし、5パーセント増えた」と喜びたくなる気持ちはよくわかります。
けれども、その年の物価上昇率が3パーセントだったとしたら、どうでしょうか。あなたが手にした本当の購買力の増加、すなわち実質リターンは、5パーセントから3パーセントを引いた、わずか2パーセントにすぎません。
さらに極端な例を考えてみましょう。資産が3パーセント増えても、物価が4パーセント上がっていれば、名目では増えているのに、実質ではマイナス1パーセント。つまり、見かけ上は資産が増えているのに、実際には買えるモノの量が減っている、という現象が起こります。
これこそが、見えないインフレが株式市場に仕掛ける最大の罠です。口座残高という名目の数字は増えているので、損をしている実感がまったくわきません。けれども、インフレという物差しで測り直すと、資産は静かに痩せている。家計のゆでガエルと、まったく同じ構造がここにあるのです。
「インフレ率を上回るリターンを上げて、はじめて本当の意味で資産が増えたといえる」。この感覚を持てるかどうかが、長期投資家として成功するための、地味だけれど決定的な分かれ道になります。
価格転嫁できない企業は、利益をじわじわ削られる
次に、インフレが個別企業の業績に与える影響を考えてみましょう。
インフレ局面では、企業が仕入れる原材料費、エネルギー価格、人件費、物流費といったコストが、軒並み上昇します。日本銀行が発表する企業物価指数を見ると、ある月の数値は129.5となり、前年同月比で2.6パーセント上昇しました。2020年からのおよそ5年間では、企業間で取引されるモノの値段はおよそ3割も上がった計算になります。
ここで企業の運命を分けるのが、増えたコストを販売価格に上乗せできるかどうか、という一点です。
コスト上昇分をきちんと価格に転嫁できる企業は、利益を守ることができます。むしろ、値上げによって売上が伸び、業績を拡大させる企業すらあります。
反対に、価格転嫁ができない企業はどうなるでしょうか。コストだけが上がり、売値を上げられないわけですから、利益率がじわじわと圧迫されていきます。先ほど紹介したステルス値上げに頼らざるを得ない企業は、まさにこの「価格転嫁に苦しむ側」に立たされているともいえます。
インフレ下で価格転嫁が得意な企業を探すという視点は、プロの投資家も重視するテーマです。具体的な事例については、こちらの記事が参考になります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB19BRS0Z10C26A5000000/
つまり、インフレは株式市場全体を一律に蝕むわけではないのです。価格決定力を持つ「勝ち組企業」と、それを持たない「負け組企業」の間で、業績にも株価にも、はっきりとした差を生み出していきます。この二極化を理解することが、銘柄選びの核心になります。
金利上昇という「もう一つの逆風」
インフレが株式市場に影響を与える経路は、企業業績だけではありません。金利を通じた、もう一つの重要な経路があります。
物価が上がると、中央銀行はそれを抑えるために政策金利を引き上げる傾向があります。金利が上がると、株式市場には主に2つの逆風が吹きます。
1つは、借入金の多い企業ほど、支払う利息の負担が増えることです。これは企業の利益を直接圧迫します。だからこそ、後ほど銘柄を見る際には、借金が少なく財務が健全な企業に注目することが重要になります。
もう1つは、少し専門的になりますが、株式の理論的な価値を計算するうえで使う「割引率」が上昇することです。難しく考える必要はありません。金利が上がると、相対的に「将来の利益」の価値が割り引かれて低く見積もられるため、特に成長期待だけで買われていた高PER銘柄の株価が下落しやすくなる、とイメージしておけば十分です。
このように、インフレと金利は表裏一体であり、両方の視点から株式市場を眺めることが大切です。
それでも株式は、長期ではインフレに強い
ここまでインフレの怖さばかりを強調してきましたが、最後に希望のある話をしておきましょう。
長期的に見れば、株式はインフレに強い代表的な資産だとされています。
理由は明快です。企業は、インフレで原材料費が上がっても、価格決定力さえあれば製品やサービスの値段を上げ、売上と利益を伸ばすことができます。利益が伸びれば、配当も増え、株価も上昇する余地が生まれます。つまり、よい企業を選んで株式を保有することは、インフレという大きな流れに乗る側に回ることでもあるのです。
現金で持っていれば、インフレに一方的に価値を奪われる側に立たされます。けれども、価格を上げる力を持つ企業の株主になれば、その値上げの恩恵を、配当と株価の上昇という形で受け取ることができます。
問題は、「では、どんな企業を選べばよいのか」ということです。次の章では、インフレに強い企業を見抜くための、具体的な物差しを4つご紹介します。
インフレに強い企業を見抜く「4つのものさし」
ものさし① 価格決定力(プライシングパワー)
インフレ時代の銘柄選びにおいて、もっとも重要なキーワードが、この価格決定力です。プライシングパワーとも呼ばれます。
価格決定力とは、コストが上がったときに、それを販売価格に上乗せしても顧客が離れていかない力のことです。強いブランド、代替の効かない製品やサービス、圧倒的なシェアなどがあると、多少値上げをしても顧客は買い続けてくれます。
たとえば、規制によってインフレ率程度の値上げが認められているインフラ企業や、強いブランド力を背景に値上げが浸透しやすい企業は、高い価格決定力を持つ傾向があります。こうした「値上げをしても選ばれ続ける企業」は、インフレを追い風に変えることができます。価格決定力に注目した投資の考え方は、こちらの解説が参考になります。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/special/tokiomarineam/2207/
逆に言えば、誰でも作れるありふれた商品を、価格競争のなかで売っている企業は、価格決定力が弱く、インフレ局面では苦しくなりがちです。
ものさし② 需要の安定性(ディフェンシブ性)
2つ目の物差しは、需要の安定性です。
景気がよかろうと悪かろうと、人々が必ず買い続けるものを扱っている企業は、インフレ局面でも業績が安定しやすい傾向があります。具体的には、食料品、とりわけ主食に近い食品、トイレットペーパーなどの日用品、電気やガスや水道といった生活インフラなどです。
これらは「ディフェンシブ銘柄」とも呼ばれます。多少値段が上がっても、生活に欠かせないものは買わざるを得ないため、需要が落ちにくく、その結果としてコスト上昇分を価格に転嫁しやすいのです。
本記事のテーマである食卓まわりの企業の多くが、このディフェンシブ性を備えているのは、銘柄選びのうえで大きな魅力といえます。
ものさし③ 財務の健全性
3つ目は、財務の健全性です。
前の章で触れたとおり、インフレは金利上昇をともなうことが多く、借入金の多い企業ほど利息負担が重くなります。そこで注目したいのが、自己資本比率の高さと、有利子負債の少なさです。
自己資本比率が高い企業は、自前の資金でしっかりと事業を回せているため、金利が上がっても影響を受けにくく、不況にも耐えやすい体質を持っています。財務三表、すなわち貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を確認し、自己資本比率や負債の状況、手元現金の厚みをチェックする習慣をつけたいところです。
インフレに強い企業を選ぶ際の、財務面のチェックポイントについては、こちらの記事が丁寧にまとめています。
https://jioinc.jp/investleaders/basic_inflastrong/
ものさし④ 割高すぎないか(バリュエーション)
4つ目、そして見落とされがちなのが、バリュエーション、すなわち株価の割高・割安の確認です。
どんなにインフレに強く、すばらしい企業であっても、その魅力がすでに株価に織り込まれ、割高な水準まで買われていたら、そこから大きく上昇する余地は限られます。「よい企業」と「よい投資先」は、必ずしもイコールではないのです。
そこで、PER、すなわち株価収益率や、PBR、すなわち株価純資産倍率といった指標を使って、株価が利益や資産に対して妥当な水準にあるかを確認します。あわせて、配当利回りもチェックすれば、インフレに負けないインカム、つまり配当収入を得られるかどうかの目安にもなります。
これら4つの物差し、すなわち価格決定力、需要の安定性、財務の健全性、そして割高すぎないバリュエーション。この視点を持って、いよいよ具体的な銘柄を見ていきましょう。
あわせて知っておきたい、インフレで逆風を受ける企業
勝てる企業を探すのと同じくらい、避けるべき企業の特徴を知っておくことも大切です。
インフレ局面で苦しくなりやすいのは、第一に、価格転嫁が難しい業界の企業です。激しい価格競争にさらされ、コストが上がっても値上げに踏み切れない企業は、利益率がじわじわと削られていきます。
第二に、借入金の多い企業です。金利が上昇すると支払利息が膨らみ、業績を圧迫します。
第三に、輸入比率の高い企業です。円安が進むと、海外から仕入れる原材料のコストが上昇し、採算が悪化しやすくなります。
つまり、同じ「食品関連株」というくくりのなかでも、ブランド力で値上げできる企業と、価格競争に巻き込まれている企業とでは、インフレ下での明暗がくっきりと分かれるのです。一つの業種をひとまとめにせず、個別企業の中身を見ることの大切さが、ここにあります。インフレ関連の日本株を業種ごとに整理したこちらの記事も、銘柄研究の入り口として役立ちます。
https://katacoto.com/inflation/
食卓から発掘する、あまり知られていない注目銘柄5選
ここからは、これまで解説してきた視点をもとに、世間ではあまり知られていない注目銘柄を5つご紹介します。
選定の軸は、本記事のテーマである「食卓とインフレ」です。鶏肉をはじめとする食料品インフレの波を、その企業がどう受け、あるいはどう味方につけているのか。そして、インフレに強い企業の4つの物差しに照らしてどうなのか。そうした観点で選んでいます。
トヨタやNTTのような有名企業ではなく、日々の暮らしの裏側で、地味に、しかし着実に利益を積み上げている企業ばかりです。「こんな会社があったのか」という発掘の楽しさを、ぜひ味わってみてください。
なお、ここで紹介する数値は執筆時点で確認できたものであり、株価や業績は日々変動します。最新の情報は、各銘柄に付したみんかぶのページなどで必ずご確認ください。また、これらはあくまで研究対象としての紹介であり、特定銘柄の購入を勧めるものではない点を、改めてお伝えしておきます。
① エスフーズ(2292) ― 食卓の「肉」を一手に握る黒子
最初にご紹介するのは、食肉のエスフーズです。1967年設立の老舗で、東証プライムに上場しています。
社名にはなじみがなくても、「こてっちゃん」というもつ料理のブランドや、もつ煮込みといった商品なら、スーパーで見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。エスフーズは、食肉の製造から卸売、小売、外食まで手がける、いわば食卓の「肉」を支える黒子のような存在です。
グループの年間売上高はおよそ4,445億円という規模で、堂々たる食肉のリーディングカンパニーです。鶏肉に限らず、牛や豚を含む食肉全般を扱っているため、まさに本記事のテーマである食料品インフレのど真ん中に位置する企業といえます。
注目したいのは、株価指標の面で配当利回りが4パーセント前後と比較的高く、PBRが1倍を下回る水準で推移していた点です。これは、業績の堅実さに対して株価が控えめに評価されている可能性を示唆しており、バリュエーションの観点からも検討に値します。食肉という生活に欠かせない需要を背景にしたディフェンシブ性と、配当の魅力をあわせ持つ一社です。
一方で、食肉の卸売は利益率が薄い事業でもあり、相場の変動や調達コストの動向に業績が左右されやすい点には注意が必要です。価格転嫁がどこまで進むか、利益率の改善が続くかが、見守るべきポイントになります。
エスフーズの最新の株価や業績、AIによる評価などは、こちらのみんかぶのページで確認できます。
https://minkabu.jp/stock/2292
② 中部飼料(2053) ― 鶏肉価格の「川上」を握る配合飼料大手
2つ目は、視点をぐっと「川上」に移します。鶏肉が高くなる最大の要因が飼料コストだったことを思い出してください。その飼料そのものを作っているのが、中部飼料です。
中部地方を地盤とする独立系の配合飼料大手で、販売量では首位級に位置します。鶏や豚、牛向けの畜産飼料に加え、魚向けの水産飼料も製造しており、有機肥料や畜産の診療といった事業も展開しています。
この銘柄の面白さは、飼料価格が上がる局面で、むしろ業績を伸ばしやすいという点にあります。実際、2026年3月期の決算では、営業利益が前期比でおよそ54パーセント増、経常利益がおよそ49パーセント増、純利益がおよそ59パーセント増と、すべての利益項目で過去最高を更新する好決算となりました。
財務も極めて健全で、自己資本比率は60パーセント台と高く、インフレに強い企業の物差しである財務の健全性をしっかり満たしています。PERは一桁から12倍台、配当利回りも3パーセント台半ばと、割安感とインカムの両面で魅力があります。鶏肉を「食べる側」ではなく「育てる仕組みを支える側」から投資するという、ひとひねりきいた発想の一社です。
ただし、飼料事業は穀物相場や為替の影響を強く受けるため、業績にはどうしても波があります。直近の好決算がそのまま続く保証はなく、相場環境の変化には注意が必要です。とはいえ、こうした川上の企業に目を向ける視点を持っているだけで、投資のアイデアの幅は大きく広がります。
中部飼料の詳細は、こちらのみんかぶのページからご覧いただけます。
https://minkabu.jp/stock/2053
③ エフピコ(7947) ― 値上げの裏で稼ぐ「トレーの王者」
3つ目は、いわゆる「ピックアンドショベル」、つまり金鉱掘りにツルハシとシャベルを売る発想の銘柄です。
エフピコは、スーパーやコンビニで使われる食品トレーや弁当容器の最大手です。あなたが買った鶏もも肉が乗っている、あの白いトレー。お惣菜が入っているあの容器。その多くを、実はこの会社が作っています。
ここがポイントです。鶏肉の値段が上がろうと下がろうと、鶏肉が売られる限り、それを乗せるトレーは必要とされます。つまりエフピコは、特定の食材の価格変動に左右されにくく、食品消費そのものの大きさから安定的に収益を得られる構造を持っているのです。
しかも、この会社は価格決定力もしっかり備えています。2026年3月期の決算では、高付加価値製品の販売拡大と製品価格の改定効果が寄与し、売上高はおよそ2,404億円、経常利益はおよそ218億円といずれも過去最高を更新しました。これは、なんと16期連続の増収です。コスト上昇分を価格に転嫁できている、まさにインフレに強い企業のお手本のような存在といえます。
新素材の開発力やリサイクル事業に強みを持つ点も、長期的な競争力につながっています。ROEは9パーセント前後と収益性も良好です。
ただし、トレーの主原料は原油由来の合成樹脂であるため、原油価格の急騰は同社にとってコスト増の要因になります。そのコストをどこまで価格改定で吸収できるかが、引き続き業績の鍵を握ります。最新の情報は、こちらのみんかぶのページで確認してみてください。
https://minkabu.jp/stock/7947
④ 寿スピリッツ(2222) ― 「高くても買われる」を体現するブランド企業
4つ目は、価格決定力という物差しを、これ以上ないほど鮮やかに体現する企業です。
寿スピリッツは、北海道・小樽の人気ブランド「ルタオ」をはじめ、各地の地域ブランド菓子を展開する菓子メーカーです。空港や観光地、百貨店などで販売される、いわゆるお土産やギフト向けの菓子に強みを持っています。
ギフトやお土産という商品は、価格よりも「特別感」や「ブランド」で選ばれる傾向があります。だからこそ、原材料費や物流費が上がっても、ブランド力を背景に価格改定を浸透させやすい。これこそが、価格決定力の真骨頂です。
この会社は、長期目線で経営を行う創業家の存在や、高い収益性でも投資家から注目を集めてきました。一般に、ブランド力で値上げができ、設備投資が比較的軽く、高い利益率を維持できる事業は、投資の世界で「質の高いビジネス」とされます。寿スピリッツは、その特徴を考えるうえでも参考になる存在です。一方で、物価高の長期化による節約志向や、原材料価格の高騰は、同社にとってもリスク要因として意識されています。価格改定がどこまで浸透するか、ギフト需要が想定どおり伸びるかが、今後の業績を左右する見どころとなります。
「高くても、それでも買われる商品とは何か」を考えるうえで、格好の教材になる一社です。寿スピリッツの株価やニュースは、こちらのみんかぶのページで追うことができます。
https://minkabu.jp/stock/2222
⑤ ハローズ(2742) ― 節約志向が追い風になる地方スーパーの雄
最後の5つ目は、私たちが実際に鶏もも肉を買う場所、すなわちスーパーマーケットそのものに注目します。
ハローズは、広島、岡山、香川、愛媛など、中国・四国地方で食品スーパーを展開する企業です。24時間営業を主体とし、特定の地域に集中して店舗を出す「ドミナント戦略」によって、物流や運営の効率を高めているのが特徴です。
インフレと節約志向が強まる局面では、消費者は「少しでも安く、便利に」買い物をしたいと考えます。こうした環境は、価格競争力と利便性を磨いてきた効率的な地域スーパーにとって、むしろ追い風になり得ます。
実際、2026年2月期の決算では、新規出店の効果もあって営業収益はおよそ2,257億円、営業利益はおよそ125億円といずれも過去最高を更新しました。ROEは8パーセントから10パーセントを上回る水準にあり、収益性も堅調です。物価高のなかで消費者がどこにお金を落とすのか、その受け皿となる企業に投資するという発想は、生活実感と結びついた、わかりやすい着眼点といえるでしょう。
もっとも、スーパー業界は競争が激しく、利益率もけっして高くはありません。仕入れコストの上昇を販売価格に転嫁しすぎれば客離れを招き、転嫁しなければ利益が削られるという、難しいかじ取りを迫られます。出店ペースと採算性を両立できているかを、決算ごとに確認していきたいところです。
ハローズの詳細は、こちらのみんかぶのページからどうぞ。
https://minkabu.jp/stock/2742
ここまで、食肉のエスフーズ、飼料の中部飼料、容器のエフピコ、菓子の寿スピリッツ、小売のハローズと、食卓を取り巻く5つの企業を、それぞれ異なる角度からご紹介しました。「食べる」「育てる」「容れる」「ブランドで売る」「届ける」という、サプライチェーンの各段階に投資のヒントが隠れていることが、おわかりいただけたのではないでしょうか。
個人投資家が、今日から始められる3つの行動
知識を得ても、行動に移さなければ、見えないインフレに資産を蝕まれ続けるだけです。最後に、今日から始められる具体的な行動を3つ、ご提案します。
行動① 家計を「インフレ目線」で見直す
まずは、足元の家計からです。
支払った金額だけでなく、「同じお金で買える量がどう変わっているか」という視点で、買い物を眺めてみてください。よく買う商品の内容量を、以前と比べてみる。割安なタンパク源に上手に切り替える。こうした小さな意識が、見えないインフレへの抵抗力になります。
節約は、それ自体が目的ではありません。浮いたお金を、次に紹介する投資へと回すための原資づくりだと考えると、前向きに取り組めるはずです。
行動② 投資で「実質リターン」を取りにいく
次に、守りから攻めへの転換です。
繰り返しになりますが、現金や預金だけで持っていると、インフレに一方的に価値を奪われます。大切なのは、口座残高という名目の数字ではなく、インフレ率を上回る実質リターンを確保することです。
そのための王道の一つが、価格決定力を持つ企業の株主になることです。値上げの恩恵を、配当や株価の上昇という形で受け取る側に回る。これが、インフレ時代の資産防衛の基本戦略になります。もちろん、株式には価格変動のリスクがありますから、一度に資金を投じるのではなく、時間や銘柄を分散しながら、長期の視点で取り組むことが大切です。
具体的な進め方として、まず意識したいのが、税制優遇制度の活用です。少額投資非課税制度を使えば、運用で得られた利益や配当に対する税金が非課税になります。インフレに負けない実質リターンを目指すうえで、税金というコストを抑えられるのは大きな味方です。
次に有効なのが、毎月一定額をコツコツ積み立てる「積立投資」です。価格が高いときには少なく、安いときには多く買うことになるため、購入価格が平準化され、高値づかみのリスクを抑えられます。タイミングを読むのが苦手な方ほど、この仕組みの恩恵は大きくなります。
そして、配当を受け取ったら、それを再び投資に回す「配当再投資」も検討に値します。配当が新たな株式を生み、その株式がさらに配当を生む。この複利の効果は、時間を味方につけるほど大きく育っていきます。先ほど紹介した「72の法則」は資産が目減りする側の話でしたが、複利はその逆、資産が増えていく側で働く強力な力なのです。
行動③ 日常の中に銘柄のヒントを探す
そして3つ目、これがいちばん楽しい行動です。
今回ご紹介した5銘柄に共通していたのは、どれも私たちの「食卓」という、ごく身近な場所から発掘できる企業だったということです。
スーパーで「最近この商品、高くなったな」「この容器、よく見るな」「このお土産、強気の値段でも売れているな」と感じたとき、その背後には必ず企業があります。その違和感や気づきこそが、銘柄発掘の最高のヒントになります。
著名な投資家も、自分の身のまわりで起きていることを投資のアイデアにしてきました。難しい経済理論から入る必要はありません。あなたの生活実感を、企業名と証券コードに変換していく。その作業を習慣にすれば、ニュースの見え方も、買い物の景色も、まったく違ったものになっていくはずです。インフレに強い日本株の探し方については、こちらの記事も着眼点の参考になります。
https://moneiro.jp/media/article/inflation-resistant-assets
気をつけたい、インフレ投資の3つの落とし穴
最後に、前向きな行動を後押しするうえで、あえて注意点もお伝えしておきます。インフレに強い投資を目指すときに、多くの人が陥りやすい落とし穴が3つあります。
1つ目は、話題になっている銘柄に焦って飛びつくことです。「インフレ関連株」として注目を集めた銘柄は、すでに株価が高くなっていることも少なくありません。よい企業であっても、高すぎる値段で買えば、よい投資にはなりません。バリュエーションの確認を忘れないことが大切です。
2つ目は、一度に資金を投じてしまうことです。相場の先行きは誰にも読めません。値動きに一喜一憂して狼狽売りをしないためにも、時間を分けて少しずつ買い、複数の銘柄に分散することを心がけたいところです。
3つ目は、知らない事業に投資してしまうことです。その会社が何で儲けているのか、なぜインフレに強いと言えるのかを、自分の言葉で説明できないうちは、投資を見送る勇気も必要です。今回ご紹介した5銘柄も、まずは「どんな会社で、なぜ食料品インフレと関係するのか」を自分なりに理解することから始めてみてください。
この3つを意識するだけで、インフレという大きな波を、より落ち着いて乗りこなせるようになるはずです。
おわりに ― 鶏もも肉が教えてくれること
鶏もも肉100グラム150円という、一見すると些細な数字。
この記事を通して、その値札の裏側に、円安や飼料高といったマクロ経済の流れ、ステルス値上げという見えないインフレ、そして家計と株式市場の両方を静かに蝕む構造が広がっていることを見てきました。
見えないインフレは、気づかなければ一方的に価値を奪われる脅威です。けれども、その正体を理解し、価格決定力を持つ企業の株主になることで、私たちはその流れを味方につけることもできます。脅威を機会に変えられるかどうかは、知っているかどうか、そして行動するかどうかにかかっています。
次にスーパーの精肉コーナーに立ったとき、ぜひ思い出してみてください。その鶏もも肉の値段は、ただの食費の話ではなく、あなたの資産運用への問いかけでもあるのだということを。
そして、その問いに対する答えのヒントは、案外、あなたの目の前の買い物カゴの中に転がっているのかもしれません。日々の暮らしの中から、まだ誰も気づいていない「隠れた実力企業」を発掘する楽しみを、ぜひ味わってみてください。
最後に改めてお伝えします。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や投資手法を推奨するものではありません。投資は元本割れのリスクをともないます。実際の投資にあたっては、ご自身でよく調べ、納得したうえで、自己責任でご判断くださいますようお願いいたします。
銘柄コード2292の動きが気になります。需給だけでは説明できない変化が出始めているように思いますが、どう見ますか?
鶏もも肉150円超えの衝撃は中期で見るとまだ評価余地が残っていると考えています。短期のノイズに振らされたくない局面です。
| セクション | 本記事で扱うポイント |
|---|---|
| スーパーの精肉コーナーで起きている「静かな異変」 | 需給と中期見通しを確認 |
| 「物価の優等生」が優等生でなくなった日 | リスクと割安性をチェック |
| なぜ、鶏もも肉はここまで値上がりしたのか | 投資判断の前提条件を点検 |
| 鶏肉は「氷山の一角」にすぎない | 関連銘柄との比較で位置付け |
| 「見えないインフレ」という言葉の本当の意味 | 次の決算で確認すべき指標 |
| ステルス値上げ(シュリンクフレーション)の仕組み | 構造と業績の関係を整理 |


















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