ファンドマネージャーも、サラリーマンである

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本記事の要点
  • はじめに
  • 第1章 ファンドマネージャーはなぜ「サラリーマン」なのか
  • 1-1 市場のプロは万能ではなく、雇われた運用者である
  • 本記事のポイントを解説
目次

はじめに

プロは合理的だが、自由ではない>株式市場では、個人投資家よりも機関投資家のほうが圧倒的に有利だと言われることが多い。豊富な情報、優秀な人材、企業への取材力、巨大な資金量、分析システム、リスク管理体制。たしかに、表面だけを見れば、プロは個人投資家よりもはるかに恵まれた環境にいる。だから多くの人は、プロの売買は常に冷静で、合理的で、企業価値を正確に反映したものだと考えてしまう。
しかし、現実の市場はそれほど単純ではない。
ファンドマネージャーはプロである前に、組織に雇われた人間である。運用会社に所属し、顧客資金を預かり、上司や投資委員会に説明し、月次や四半期ごとに成績を評価される。どれほど優秀な運用者であっても、完全に自由な判断だけで売買できるわけではない。そこには、ベンチマーク、社内ルール、リスク管理、顧客への説明責任、資金流入と資金流出、期末評価、報酬体系、そして何より「失敗したときにどう見られるか」という現実的な問題がある。
つまり、ファンドマネージャーもまた、サラリーマンなのである。
この視点を持つだけで、市場の見え方は大きく変わる。株価が上がったからといって、必ずしもその企業の価値が急に高まったとは限らない。株価が下がったからといって、必ずしもその企業が根本的に悪くなったとは限らない。ときには、誰かが期末のポートフォリオを見栄えよく整えるために買っているだけかもしれない。ときには、損失を確定させる必要があるために、売りたくない銘柄まで売っているのかもしれない。ときには、同業他社に遅れないために、すでに高いとわかっている人気銘柄を買わざるを得ないのかもしれない。
市場で起きている売買のすべてが、純粋な企業価値判断によって行われているわけではない。むしろ短期的な価格変動の多くは、投資家の立場、制約、期限、評価、恐怖によって生まれる。特に機関投資家の資金は大きい。そのため、彼らの都合が売買として市場に表れたとき、株価には一定の歪みが生じる。個人投資家が狙うべきなのは、この歪みである。
本書のテーマは、ファンドマネージャーの保身が生む機械的売買を読み解き、それを個人投資家の武器に変えることである。
ここでいう保身とは、単に怠けているとか、責任逃れをしているという意味ではない。むしろ、多くのファンドマネージャーは真剣に仕事をしている。企業を調べ、市場を読み、顧客の資産を増やそうとしている。それでも、組織の中で働く以上、彼らには避けられない制約がある。大きく負ければ責任を問われる。ベンチマークから大きく外れれば説明を求められる。誰も持っていない銘柄で負ければ「なぜそんなものを買ったのか」と言われる。みんなが持っている銘柄で負けた場合は、少なくとも言い訳がしやすい。
この「言い訳のしやすさ」は、市場では意外なほど重要である。
投資の世界では、正しい判断がすぐに報われるとは限らない。逆に、間違った判断でもしばらくは成功して見えることがある。だからこそ、組織の中の運用者は、結果だけでなく過程を説明できるかを常に意識する。割安だから買った、成長性があるから買った、指数に含まれているから持っていた、他社も同じように保有している、アナリストの評価も高かった。このような説明ができる銘柄は、組織内で保有しやすい。
一方で、説明しにくい銘柄は敬遠されやすい。たとえ将来性があっても、流動性が低い、時価総額が小さい、業績が不安定、社内で誰も知らない、ベンチマークから離れすぎる。このような銘柄は、買うだけで勇気がいる。買って上がれば称賛されるかもしれないが、下がれば厳しく追及される。多くの運用者にとって、本当に怖いのは損失そのものではない。説明できない損失である。
この心理が、横並び運用を生む。
多くのファンドが同じような大型株を持ち、同じようなテーマに資金を向け、同じようなタイミングで買い、同じようなタイミングで売る。外から見ると、プロが群れているように見えるかもしれない。しかし、その背景には、他人と違うことをして失敗する恐怖がある。大きな資金を預かる者にとって、独自性は武器であると同時にリスクでもある。成功すれば名声になるが、失敗すれば職を失う理由になる。
この構造を理解すると、期末の化粧買いも、年末の損出し売りも、指数リバランスも、決算後の過剰反応も、単なる偶然ではなくなる。そこには、繰り返される人間と組織の行動パターンがある。
たとえば、期末が近づくと、ファンドは保有銘柄の見栄えを意識しやすくなる。運用報告書に載せたとき、顧客に納得してもらいやすい銘柄を持っていたい。大きく上昇した人気銘柄を保有していれば、「きちんと勝ち組に乗っていた」と見せやすい。逆に、大きく下落した銘柄を抱えていると、「なぜこんな銘柄を持っていたのか」と問われる可能性がある。その結果、期末前に勝ち組銘柄がさらに買われ、負け組銘柄がさらに売られることがある。これが化粧買い、あるいはポートフォリオの見栄えを整える売買である。
また、年末や決算期には、損出し売りが発生しやすい。含み損を抱えた銘柄を売却して損失を確定させることで、税金や評価上の処理を行う。売られる銘柄の中には、本当に業績が悪化しているものもあるが、単に需給上の理由で売られているものもある。後者の場合、売りが一巡した後に株価が戻ることがある。個人投資家にとって重要なのは、下落している銘柄を無差別に買うことではなく、なぜ売られているのかを見極めることである。
さらに、指数採用や除外、リバランスによっても機械的な売買は生まれる。パッシブ運用や指数連動型の資金は、企業の魅力を一つひとつ判断して売買しているわけではない。ルールに従って買い、ルールに従って売る。つまり、ある程度予測可能な売買である。もちろん、誰もが気づくイベントは早く織り込まれるため、単純に先回りすればよいわけではない。それでも、売買が発生する構造を知っているだけで、市場の値動きに対する理解は深くなる。
本書では、こうした機関投資家の制約から生まれる売買を、個人投資家がどのように観察し、どのように先回りし、どのようにリスク管理すべきかを考えていく。
大切なのは、プロを馬鹿にすることではない。ファンドマネージャーは、多くの場合、個人投資家よりも高度な知識と経験を持っている。彼らの分析力を軽視すれば、個人投資家は簡単に市場から退場させられる。だが同時に、彼らが置かれている立場を理解すれば、個人投資家にも勝機はある。個人投資家は巨大な資金を動かす必要がない。投資委員会に説明する必要もない。ベンチマークから離れても怒られない。月末や四半期末に顧客へ保有銘柄を見せる必要もない。売りたいときに売り、休みたいときに休むことができる。
この自由こそ、個人投資家の最大の強みである。
ただし、自由はそのままでは武器にならない。自由に売買できるということは、同時に、いくらでも間違った判断ができるということでもある。思いつきで買い、感情で売り、損失を認められず、上がった銘柄に飛びつき、下がった銘柄を根拠なくナンピンする。これでは、せっかくの自由は単なる無秩序になる。個人投資家がプロの制約を利用するためには、まず市場で何が起きているのかを構造的に見る必要がある。
株価を動かすのは、ニュースだけではない。業績だけでもない。チャートだけでもない。そこには、誰が、なぜ、いつまでに、どれだけ買わなければならないのか。あるいは、誰が、なぜ、いつまでに、どれだけ売らなければならないのかという需給の問題がある。この「しなければならない売買」こそ、本書が注目する対象である。
投資で重要なのは、未来を完全に当てることではない。そんなことは誰にもできない。重要なのは、繰り返し起こりやすいパターンを見つけ、自分に有利な局面だけ参加し、不利な局面では手を出さないことである。機関投資家の保身、期末の化粧買い、横並び運用、損出し売り、リバランス、決算後の需給変化。これらは、毎回同じ形で現れるわけではないが、似た構造は何度も市場に表れる。
本書を通じて読者に身につけてほしいのは、特定の必勝法ではない。市場を見る視点である。
この銘柄はなぜ今買われているのか。
この下落は企業価値の悪化なのか、それとも需給上の売りなのか。
この上昇は本物の資金流入なのか、それとも期末特有の一時的な買いなのか。
プロはこの銘柄を買いたいのか、それとも持っていないと困るから買っているのか。
売りが出ているのは、悪材料があるからなのか、それとも誰かの都合で売らされているからなのか。
こうした問いを持つだけで、売買の精度は変わる。少なくとも、目先の値動きに振り回されるだけの投資からは一歩抜け出せる。
ファンドマネージャーも、サラリーマンである。
この一文は、プロを軽んじるための言葉ではない。市場をより現実的に見るための入口である。株式市場は、教科書に書かれているほどきれいな場所ではない。そこには合理性もあれば、恐怖もある。分析もあれば、保身もある。信念もあれば、横並びもある。長期的には企業価値が重要であっても、短期から中期の価格形成には、組織の都合が大きく入り込む。
その都合を読み、歪みを見つけ、無理のない範囲で利用する。
これが、本書で扱う投資技術の中心である。プロと同じ土俵で情報量や分析力を競う必要はない。個人投資家は、プロが自由に動けない場面を探せばよい。彼らが売らざるを得ないとき、買わざるを得ないとき、横並びせざるを得ないとき、見栄えを整えざるを得ないとき。その背後にある構造を理解できれば、市場は単なるランダムな値動きではなく、人間と組織の行動が積み重なったものとして見えてくる。
この本は、その見え方を手に入れるための一冊である。

第1章 ファンドマネージャーはなぜ「サラリーマン」なのか

1-1 市場のプロは万能ではなく、雇われた運用者である

株式市場に参加している多くの個人投資家は、「プロ」という言葉に必要以上の幻想を抱いている。プロならば、あらゆる情報を先に知っているはずだ。プロならば、株価の先行きを高い精度で読めるはずだ。プロならば、企業価値を正確に見抜き、冷静に買い、冷静に売っているはずだ。そう考えると、個人投資家は最初から不利な勝負をしているように感じる。
たしかに、ファンドマネージャーには個人投資家にはない優位性がある。企業取材の機会がある。アナリストの詳細なレポートを読める。経営者と面談できる。業界専門家の意見を聞ける。チームで調査できる。膨大なデータを分析できる。証券会社から情報が集まりやすい。売買の執行にも専門部署が関わる。こうした環境だけを見れば、プロは圧倒的に有利に見える。
しかし、その優位性と引き換えに、プロは大きな不自由さも背負っている。ファンドマネージャーは、自分のお金だけを自由に運用しているわけではない。顧客から預かった資金を、運用会社という組織の中で管理している。社内ルールがあり、投資方針があり、リスク制限があり、上司があり、評価制度がある。どれほど自分では買いたいと思っても、ファンドの性格に合わなければ買えない。どれほど売りたいと思っても、流動性や顧客説明の問題で簡単には売れない。
ここに、個人投資家が見落としがちな重要な事実がある。ファンドマネージャーは相場の職人であると同時に、会社員でもある。運用成績を上げることが仕事である一方で、組織の中で評価され続けることも仕事なのである。自分の信念だけで大胆に動くことは、外から見るほど簡単ではない。むしろ、組織内で説明できる範囲に判断を収めることが求められる。
個人投資家は、買いたい銘柄を買えばよい。持ちたくなければ売ればよい。今日休みたければ相場を見なくてもよい。だが、ファンドマネージャーはそうはいかない。顧客から資金を預かっている以上、常に何らかの形で説明責任を負っている。なぜその銘柄を買ったのか。なぜその比率まで増やしたのか。なぜ下がっても持ち続けたのか。なぜ上がる前に売ってしまったのか。こうした問いに答えられなければ、たとえ結果的に利益が出たとしても、組織の中では評価されにくい。
運用の世界では、正しい判断と評価される判断が必ずしも一致しない。市場で儲かる可能性が高い判断であっても、社内で説明しにくければ採用されないことがある。逆に、期待値としてはそれほど高くなくても、説明しやすく、他のファンドも同じように保有している銘柄であれば、選ばれやすいことがある。このねじれが、プロの売買を読み解くうえで欠かせない。
ファンドマネージャーを「万能な市場参加者」として見ると、彼らの売買は理解しにくい。なぜ高すぎる人気株を買うのか。なぜ明らかに売られすぎに見える銘柄をさらに売るのか。なぜ皆が同じような銘柄に集中するのか。だが、彼らを「雇われた運用者」として見ると、その行動には別の合理性が見えてくる。彼らは市場に対して合理的であろうとするだけでなく、組織に対しても合理的であろうとしている。
この二重の合理性が、機関投資家の売買を複雑にしている。市場で勝つための合理性と、会社で生き残るための合理性。その両方が一致するとき、プロは強い。しかし、両者が対立するとき、プロはしばしば会社で生き残るための判断を優先する。なぜなら、運用の仕事は一度大きく信用を失うと続けにくいからである。
この本で扱うのは、まさにその部分である。プロが愚かだから市場に歪みが生まれるのではない。プロが有能であっても、組織に雇われた人間である以上、避けられない歪みが生まれる。個人投資家が見るべきなのは、プロの能力の高さだけではなく、プロの立場の弱さである。市場の巨大資金を動かしている人間も、結局は評価される側の人間である。その現実を理解することが、本章の出発点になる。

マーケットアナリスト

今回ファンドマネージャーもを取り上げた理由は、サラリーマンであるという観点で見直す価値があると判断したからです。

投資リサーチャー

読み手目線で言うと、ここから先の3か月で何を確認すべきか、を整理しておきたいですね。

セクション 本記事で扱うポイント
はじめに リスクと割安性をチェック
第1章 ファンドマネージャーはなぜ「サラリーマン」なのか 投資判断の前提条件を点検
1-1 市場のプロは万能ではなく、雇われた運用者である 関連銘柄との比較で位置付け

本記事のまとめ

ファンドマネージャーも、サラリの要点を改めて整理します。中期視点での再評価が今後のキーポイントです。

市場の構造変化に注目しておく必要があります。次の決算で確認すべきポイントを整理しましょう。

本記事内容は現時点の分析です。最新の市場動向を踏まえて再評価をおすすめします。

投資判断は自己責任にてお願いします

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この記事を書いた人

「日本個別株デューデリジェンスセンター」運営者。日本の個別株に特化した投資リサーチを専門とし、銘柄分析・企業デューデリジェンス・業界動向・IPO分析を中心に2,800本超の分析レポートを執筆。ファンダメンタルズ分析とデータドリブンなアプローチで、個人投資家の意思決定をサポートしています。毎日更新の分析レポートを通じて、プロ水準のリサーチを個人投資家に届けることをミッションとしています。

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