PERだけで株を選んではいけない──プロが必ず併用する「5つの補完指標」と、その使い分け

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本記事のポイント
  • PERが低い株を見つけた時ほど、手が早くなる
  • PERが低いだけで心が軽くなる、その瞬間が危ない
  • 5つの補完指標で、利益の顔つきを分けて見る
  • 安く買う前に、3つの場面を先に決めておく
目次


マーケットアナリスト
マーケットアナリスト
PERは便利な指標ですが、業界構造とキャッシュフローの両方を見ないと割安かどうかは判断できません。

PERを入口にしながら、割安に見える株で傷を深くしないための見方と撤退基準を持ち帰る記事です。

PERが低い株を見つけた時ほど、手が早くなる

PERが10倍を切っている。

この数字を見ると、少し安心しますよね。
「市場が見落としているのではないか」
「これ以上は下がりにくいのではないか」
そんな気持ちが、胸の奥で静かに膨らみます。

私も同じでした。

むしろ昔の私は、PERが低い銘柄を見つけると、少し得意な気分になっていました。
みんなが派手な成長株を追っている間に、自分だけが地味な割安株を拾っている。
そう思える瞬間は、投資家として賢くなった気がするんです。

ただ、ここに落とし穴があります。

PERは便利です。
株価が1株利益の何倍まで買われているかを見る指標で、計算式は「株価÷EPS」です。EPSは1株当たり利益のことで、会社の利益を普通株式数で割ったものです。(投資家向け政府サイト)

でも、PERが見せてくれるのは、あくまで利益に対する株価の位置です。
その利益が一時的なのか。
現金を伴っているのか。
借金で無理に支えられていないか。
将来も伸びるのか。

そこまでは、PERだけでは分かりません。

正直、ここは私も迷います。
PERが低い株を見つけた時に、見送るのは気持ちが悪いです。
買わなければ置いていかれる気もします。
でも、私が長く相場に残るために覚えたのは、安く見える株ほど、もう一枚だけ決算書をめくることでした。

この記事で持ち帰ってほしいのは、PERを捨てる話ではありません。

PERを入口にして、何を見て、何を捨てるかです。
特に、PBR、ROE、ROIC、PEG、フリーキャッシュフロー利回りの5つを、どう使い分けるかを整理します。

そして最後に、私がPERだけで買って塩漬けにした失敗から作った、撤退基準まで置いていきます。
買い方よりも、逃げ方です。
相場で生き残るには、そちらのほうが効きます。

PERが低いだけで心が軽くなる、その瞬間が危ない

投資リサーチャー
投資リサーチャー
補完指標を組み合わせる発想は、決算プレイでも長期投資でも有効です。常に複数のレンズで観察しましょう。

まず、ノイズを分けます。

ひとつ目のノイズは、「市場平均よりPERが低い」というだけの情報です。
これは安心感を誘います。
でも、業種が違えば利益率も成長率も資本構造も違います。
銀行、商社、ソフトウェア、半導体装置を同じPERの物差しで並べると、かなり雑な判断になります。

PERは過去との比較や、同じ業種内の比較に使いやすい指標です。
逆に言えば、違う構造の会社を横並びにすると誤読しやすい。
「市場平均より低いから割安」と一言で閉じるなら、私はその情報をいったん捨てます。

ふたつ目のノイズは、「予想PERが急に低くなった」というニュースです。
これは期待を誘います。
ただし、予想PERの分母は将来利益です。
来期利益が強く見積もられていれば、PERは低く見えます。
その予想が1回下方修正されるだけで、割安感は簡単に消えます。

PERの分母であるEPSは、利益を株数で割った数字です。
つまり、利益予想が崩れれば、PERの見え方も変わります。(投資家向け政府サイト)
ここを見ずに「PER8倍だから安い」と言うのは、体重計だけ見て健康診断を終えるようなものです。

みっつ目のノイズは、「有名投資家が買ったらしい」という話です。
これはFOMOを誘います。
FOMOとは、乗り遅れへの恐怖です。
自分の調査が終わる前に、買わないといけない気がしてきます。

でも、その人の買値も、資金量も、撤退基準も、私たちには分かりません。
同じ銘柄でも、買った理由と売る理由が違えば、まったく別の投資です。
私はこれを、参考にはしても、売買理由にはしません。

では、見るべきシグナルは何か。

ひとつ目は、EPS予想の変化です。
確認する場所は、会社の決算短信、決算説明資料、業績予想修正の適時開示です。
頻度は四半期ごとで十分です。
ここで見るのは、今期予想と来期の市場予想が上がっているか、下がっているかです。

EPS予想が10%以上下がったのに、株価だけを見て「PERはまだ低い」と言っているなら、少し危ないです。
PERの分母が崩れている可能性があります。
このシグナルは、後ほどPEGと組み合わせて使います。

ふたつ目は、ROEとROICの水準です。
ROEは自己資本に対してどれだけ利益を出したかを見る指標で、株主のお金をどれだけ効率よく使ったかを見るものです。
ROICは、株主資本だけでなく借入も含めた投下資本から、どれだけ利益を生んだかを見る考え方です。ROICは、投下資本に対する税引後営業利益の効率を見る指標として使われます。(Investopedia)

確認する場所は、有価証券報告書、決算説明資料、会社の中期経営計画です。
頻度は本決算と中間決算でよいです。
ここで見るのは、利益の量ではなく、資本を使う腕前です。

みっつ目は、フリーキャッシュフローです。
これは事業から得た現金から、必要な投資を差し引いた後に残る現金です。
CFA Instituteも、企業や株式の価値評価では、フリーキャッシュフローを使って将来の価値を考える方法を扱っています。(CFA Institute)

確認する場所は、キャッシュフロー計算書です。
頻度は本決算、できれば四半期ごとです。
営業キャッシュフローが黒字でも、設備投資が重すぎると、手元に残る現金は薄くなります。

PERが低い。
でもEPS予想は下がっている。
ROICは資本コストを下回っている。
フリーキャッシュフローも出ていない。

この組み合わせなら、私は「安い株」ではなく「安く見える理由がある株」と見ます。
前提が変われば判断も変えます。
ただ、少なくとも買い急ぐ局面ではありません。

5つの補完指標で、利益の顔つきを分けて見る

ここから、PERを補完する5つの指標を使います。

まず事実から置きます。

PERは利益に対する株価の倍率です。
CFA Instituteは、株価倍率や企業価値倍率を、株式価値や企業全体の価値と、利益・売上・簿価などの基本指標を結びつけるものとして説明しています。(CFA Institute)

つまり、倍率は便利な要約です。
ただし、要約である以上、細部は落ちます。
だから補完指標が必要になります。

ひとつ目は、PBRです。
PBRは株価純資産倍率で、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを見る指標です。日本証券業協会の用語説明でも、純資産から見た株価の割安性を見る指標とされています。(金融経済教育推進機構 J-FLEC)

PBRは、資産株や金融株、商社、製造業などで特に使います。
PERが低く、PBRも1倍を割れていると、数字だけならかなり安く見えます。
でも、ここで止まると危ないです。

PBRが低い理由が、資産をうまく利益に変えられていないことなら、株価は長く眠ります。
PBRだけで買うのではなく、次のROEと必ず組み合わせます。

ふたつ目は、ROEです。
ROEは、株主資本を使ってどれだけ利益を出しているかを見る指標です。
一般に「純利益÷自己資本」で考えます。(Investopedia)

私の目安は、成熟企業ならROE8%以上です。
これは魔法の数字ではありません。
ただ、日本株では資本コストを意識する企業が増えており、ROEが低い会社は、PBRが上がりにくい理由を説明できないと買いにくいです。

ROEが12%以上で、自己資本比率も極端に低くない。
そのうえでPERが同業比で低いなら、初めて「市場が見落としているかもしれない」と考えます。

ただし、借金を増やすとROEは高く見えることがあります。
自己資本が薄くなれば、分母が小さくなるからです。
だから、ROEの次にROICを見ます。

みっつ目は、ROICです。
ROICは、株主資本と借入を含めた投下資本を使い、どれだけ営業利益を生んだかを見る指標です。
企業が価値を作るには、ROICが資本コストを上回る状態が大切だと説明されることが多いです。(Investopedia)

私の見方はシンプルです。
会社が資本コストを開示しているなら、ROICが資本コストを2%以上上回っているか。
資本コストが分からないなら、ROICが8%以上で、過去3年で落ちていないか。

この条件を下回るなら、PERが低くても買い急ぎません。
利益は出ていても、資本を効率よく回せていない可能性があるからです。

よっつ目は、PEGです。
PEGはPERを利益成長率で割る指標です。
CFA Instituteも、PEGをP/Eに利益成長の影響を組み込む道具として説明しています。(CFA Institute)

たとえば、PER20倍でも、EPSが年20%伸びる見通しなら、PEGはおおむね1倍です。
PER10倍でも、EPSが毎年0%成長なら、PEGでは魅力が薄くなります。

私の目安は、安定成長株ならPEG0.8〜1.5倍です。
0.8倍未満なら、市場が悲観しすぎている可能性を調べます。
1.5倍を超えるなら、成長期待がかなり株価に入っていると見ます。

ただし、PEGは予想成長率に強く依存します。
この予想が外れたら、指標としての頼りがいも落ちます。
景気敏感株や赤字から黒字化する会社には、あまり強く使いません。

いつつ目は、フリーキャッシュフロー利回りです。
フリーキャッシュフロー利回りは、フリーキャッシュフローを時価総額で割る見方です。
利益ではなく、残った現金に対して株価がどの程度かを見るために使います。

私の目安は、安定企業なら3〜6%です。
5%を超えていて、過去5年のうち3年以上フリーキャッシュフローが黒字なら、PERの低さを少し信じやすくなります。
逆に、PERが低くてもフリーキャッシュフローが2年連続で赤字なら、私は一度止まります。

ここまでを、私の解釈としてまとめます。

PERは「利益に対して安いか」を見ます。
PBRは「資産に対して安いか」を見ます。
ROEは「株主資本をうまく使っているか」を見ます。
ROICは「借入を含めた資本をうまく使っているか」を見ます。
PEGは「成長を考えた時に高すぎないか」を見ます。
フリーキャッシュフロー利回りは「利益が現金として残っているか」を見ます。

ここで、あえて5つと言いながら、6つに見えたかもしれません。
実務では、PBRとROEはセットでひとつの箱に入れます。
PBRが低い理由を、ROEで確認するからです。

読者の行動に落とすなら、こうです。

PERが同業比で低い銘柄を見つけたら、まずPBRとROEを見ます。
PBR1倍未満でROE8%未満なら、資産はあるが稼ぐ力が弱い可能性があります。
この場合、買う理由は「割安」ではなく、「改善策が具体的に出ていること」に変わります。

次にROICを見ます。
ROICが資本コストを2%以上上回っていないなら、成長投資が価値を生んでいるか疑います。

次にPEGを見ます。
EPS成長率が5%未満なのに、PERだけで安いと言うのは早いです。
利益が伸びない会社のPERは、低いまま放置されることがあります。

最後にフリーキャッシュフロー利回りを見ます。
利益が出ていても現金が残らない会社は、配当、自社株買い、成長投資の余力が限られます。
株主還元のニュースだけで飛びつく前に、現金の裏付けを見ます。

安く買う前に、3つの場面を先に決めておく

私は、PERが低い株を見つけたら、買う前に3つのシナリオを書きます。
面倒ですが、これをやらない時ほど損切りが遅れます。

基本シナリオ。

発生条件は、同業平均よりPERが低く、ROE8%以上、ROICが資本コストを2%以上上回り、フリーキャッシュフローが過去5年のうち3年以上黒字であることです。
加えて、EPS予想が直近四半期で10%以上下方修正されていないことを見ます。

やることは、最初から全額を入れないことです。
予定資金の3分の1だけ買い、次の決算で営業利益率と営業キャッシュフローを確認します。
数字が続けば、2回目を入れます。

やらないことは、PERがさらに下がっただけでナンピンすることです。
PER低下の理由が株価下落ではなく、利益予想の崩れなら、追加買いは傷を深くします。

チェックするものは、EPS予想、ROE、ROIC、フリーキャッシュフローです。
この4つは、M2で置いたシグナルそのものです。

逆風シナリオ。

発生条件は、EPS予想が10%以上下がる、ROICが資本コストを下回る、またはフリーキャッシュフローが2四半期連続で赤字になることです。
この場合、低PERは安全圏ではありません。
むしろ市場が先に業績悪化を織り込み始めている可能性があります。

やることは、ポジションを半分以下に落とすことです。
決算直後に判断できないなら、翌営業日まで待ってもかまいません。
ただし、次の週まで先延ばしにしないほうがいいです。

やらないことは、「長期では戻る」と言いながら、前提の確認を止めることです。
長期投資と放置は違います。
前提が壊れたなら、長期でも一度撤退します。

チェックするものは、会社の業績予想修正、キャッシュフロー計算書、設備投資額です。
利益より現金が先に悪くなる会社もあります。

様子見シナリオ。

発生条件は、PERは低いが、ROEが8%未満、ROICが不明、フリーキャッシュフローが安定しない場合です。
この銘柄は、安いかもしれません。
でも、まだ買う理由が数字でそろっていません。

やることは、監視リストに入れることです。
買うとしても、通常の半分以下の資金にします。
私はこの場面では、予定資金の4分の1までにします。

やらないことは、「見つけた記念」で買うことです。
これは昔の私がよくやった失敗です。
調べた時間が惜しくなり、買わないと損した気がしてしまうんです。

チェックするものは、次の決算での営業利益率、営業キャッシュフロー、ROICの開示です。
ここが改善すれば基本シナリオに移します。
改善しなければ、見送ったままにします。

ここで大事なのは、シナリオを当てることではありません。
外れた時に、どの条件で考え直すかを決めておくことです。

前提が変われば判断も変えます。
これは逃げではなく、生き残るための作法です。

私がPER7倍で拾い、3年眠らせた恥ずかしい株

私の失敗をひとつ話します。

時期は、2010年代半ばです。
当時の私は、景気敏感株に少し慣れてきた頃でした。
決算短信を読み、PERを比べ、配当利回りも見ていました。
自分では、初心者を抜けたつもりでした。

ある素材系の会社を見つけました。

PERは7倍台。
PBRは1倍割れ。
配当利回りも悪くない。
チャートも高値からかなり下がっていました。

私は思いました。
「これはさすがに安いだろう」と。

その時に見ていたものは、PERとPBRと配当利回りだけでした。
見なかったものは、営業キャッシュフロー、在庫、設備投資、そしてROICです。
今思えば、いちばん大事なところを飛ばしていました。

後押しした感情は、焦りでした。

同じ頃、周りの投資家がいくつかの割安株で利益を出していました。
SNSでも、低PER株の見直しが話題になっていました。
私は乗り遅れたくなかった。
それを「割安株投資」と呼んで、焦りを理屈で包んでいました。

買った直後、少しだけ上がりました。

その数日間が、よくなかったんです。
私は自分の判断が正しかったと思いました。
追加で買いました。
そして決算をまたぎました。

決算は、見た目ほど悪くありませんでした。
売上も利益も黒字です。
ただ、営業キャッシュフローが弱い。
在庫が増えている。
設備投資も重い。
フリーキャッシュフローはほとんど残っていない。

本当なら、ここで一度止まるべきでした。

でも私は、PERを見ました。
下がった株価で、PERはさらに低く見えました。
「もっと安くなった」と思ってしまったんです。

これが塩漬けの入口でした。

その後、業績予想が下方修正されました。
株価はじりじり下がりました。
一気に暴落するなら、まだ逃げられたかもしれません。
でも毎週少しずつ下がる相場は、心を鈍らせます。

私は、損失を見ないようになりました。
証券口座を開く回数も減りました。
たまに見ると、含み損が増えている。
そのたびに「長期だから」と自分に言い聞かせました。

正直、恥ずかしかったです。
割安株を分かっているつもりで、ただ安く見える株を握っていただけでした。

結果として、その株は3年近く資金を寝かせました。
最終的には損切りしました。
損失額そのものより、機会損失が痛かったです。
その間、もっと良い会社を買う資金が動かせませんでした。

何が間違いだったのか。

PERが低いことを、リスクが低いことと勘違いしました。
PBRが低いことを、下値が固いことと勘違いしました。
配当があることを、株主に優しいことと勘違いしました。

本当は、現金が残っていない会社の配当は、将来の余力を削る場合があります。
資本効率が低い会社のPBR1倍割れは、放置される理由がある場合があります。
PERが低い会社は、利益が続かないと市場に見られている場合があります。

あの時の私は、反論を用意していませんでした。
「もし営業キャッシュフローが悪化したらどうするか」
「もしEPS予想が下がったらどうするか」
「もしROICが資本コストを下回っていたらどうするか」

何も決めていませんでした。

だから売れなかったんです。
売る理由がないのではなく、売る理由を先に作っていなかった。
この差は大きいです。

今でも、低PER株を見ると少し胃が重くなります。
あの失敗を思い出すからです。
美談にはなりません。
ただ、その痛みがあるから、私は今も相場に残れています。

私は今、PERを見たあとにこの順番で手を止めます

あの失敗があったから、今の私はPERだけで注文ボタンを押しません。
必ず、次の順番で見ます。

まず、資金配分です。

個別株全体は、リスク資産の30〜60%までにしています。
市場全体が過熱していると感じる時は30〜40%、決算が強く下値不安が小さい時でも50〜60%です。
これは強気弱気の話ではなく、生活資金を巻き込まないための幅です。

1銘柄あたりは、通常2〜5%です。
どれだけ自信があっても、最初から8%を超えないようにしています。
低PER株は、間違えた時に戻りが遅いことがあります。
そのため、最初のサイズを小さくしておく価値があります。

次に、建て方です。

私は3分割を基本にします。
1回目は、条件を満たした時に予定額の3分の1。
2回目は、次の決算でEPS予想と営業キャッシュフローが崩れていない時。
3回目は、株価が買値から5〜10%上に進み、かつROEやROICの前提が続いている時です。

間隔は、最低でも2〜4週間は空けます。
決算直後なら、次の月次や受注、会社説明資料が出るまで待つこともあります。
焦って一度に買うと、後から見えた悪材料に対応できません。

ここで、撤退基準を3点セットで置きます。

価格の撤退基準。

買値から12〜15%下がったら、一度半分にします。
ただし、業績前提が壊れていないなら全部は売りません。
逆に、決算で前提が壊れた場合は、下落率が8%でも減らします。

もうひとつ、相対基準も見ます。
同じ期間にTOPIXや同業平均が横ばいなのに、自分の銘柄だけが10%以上弱いなら、何かを見落としている可能性があります。
株価だけで断定はしませんが、調査をやり直す合図にします。

時間の撤退基準。

買ってから2四半期たっても、EPS予想、ROIC、フリーキャッシュフローのどれも改善しないなら、半分以上売ります。
割安株は、時間を味方にする投資です。
でも、時間をかけても前提が動かないなら、資金拘束のコストが重くなります。

私の上限は、基本的に1年です。
1年持っても、会社の改善策が数字に出ないなら、見立てが早すぎたと認めます。
早すぎる投資も、間違いの一種です。

前提の撤退基準。

EPS予想が10%以上下方修正されたら、買い増しは禁止です。
ROICが資本コストを下回ったら、保有理由を作り直します。
フリーキャッシュフローが2期連続で赤字なら、低PERの評価をいったん外します。

ここで大事なのは、撤退が負けではないということです。
撤退は、次に考える余力を残す行動です。

判断に迷ったら、ポジションを半分にしてください。間違えてもダメージが半分になります。迷いは市場からのサインです。

この言葉は、私が自分に何度も言っているものです。
全部売るのは怖い。
でも全部持つのも怖い。
その中間として、半分にする。

これだけで、判断の呼吸が戻ります。

保存用に、私のチェックリストを置いておきます。

PERで買う前のYes/Noチェックリスト

  1. 同業他社と比べたPERを確認したか

  2. EPS予想が直近で10%以上下がっていないか

  3. PBRが低い理由をROEで説明できるか

  4. ROEは8%以上、または改善計画が具体的か

  5. ROICは資本コストを上回っているか

  6. フリーキャッシュフローは過去5年で3年以上黒字か

  7. PEGは0.8〜1.5倍の範囲に近いか

  8. 買う前に価格・時間・前提の撤退基準を書いたか

  9. 買わなかった場合の悔しさだけで判断していないか

Yesが6個未満なら、私は買いません。
7個以上でも、最初は3分の1だけです。
Yesが多いことと、全力で買ってよいことは別です。

次に、自分に当てはめる質問です。

この銘柄のPERが低い理由を、1分で説明できますか。
次の決算で何が悪化したら売るか、数字で言えますか。
この投資が1年動かなかった時、生活や気持ちに影響はありませんか。

答えられないこと自体が、気づきになります。
私も、ここで何度も手を止められました。

最後に、私のミスを防ぐルールです。

PERだけで注文画面を開かない。
EPS予想が下がった銘柄は、最低1回の決算を待つ。
営業キャッシュフローが悪い低PER株は、買っても予定額の4分の1まで。
損切りではなく、前提切りという言葉で管理する。
迷った時は半分にして、翌日もう一度読む。

あの失敗があったから、今の私は「安いから買う」ではなく、「安い理由を説明できるから少し買う」に変えています。
この違いだけで、退場リスクはかなり下がりました。

「PERだけで十分では?」という指摘はもっともです

その指摘はもっともです。

PERは分かりやすいです。
初心者にも使えます。
昔から多くの投資家が見てきました。
決算短信を開いて、すぐ確認できるのも強みです。

私もPERを否定していません。
むしろ、最初に見ることが多いです。

ただし、PERが役に立つ条件があります。

利益が安定していること。
一時的な特別利益や特別損失でEPSが大きく歪んでいないこと。
同業他社と比較していること。
そして、将来の利益見通しが大きく崩れていないことです。

この条件がそろうなら、PERはかなり使えます。

たとえば、生活必需品、通信、成熟したソフトウェア、安定的なサービス業のように、利益のブレが小さい会社では、PERの比較が効きやすいです。
過去5年のPERレンジと比べるだけでも、市場の期待がどのあたりにあるか見えます。

でも、景気敏感株、資源株、海運、半導体、赤字から黒字化する会社では、PERだけでは心もとないです。
利益が山の上にいる時ほど、PERは低く見えることがあります。
翌年の利益が下がれば、その低PERは消えます。

だから私は、条件分岐で使います。

安定成長株なら、PERとPEGを重めに見ます。
資産株なら、PBRとROEを重めに見ます。
設備投資が重い会社なら、ROICとフリーキャッシュフローを重めに見ます。
借入が多い会社なら、PERよりEV/EBITDAやネット有利子負債を見ます。

EV/EBITDAは、株式時価総額だけでなく負債も含めた企業価値を、EBITDAという利払い・税金・減価償却前の利益に対して見る指標です。CFA Instituteも、EV/EBITDAの基本要因として、将来のフリーキャッシュフロー成長、収益性、資本コストを挙げています。(CFA Institute)

ただ、この記事では補完指標の主役を、PBR・ROE・ROIC・PEG・フリーキャッシュフロー利回りに置きました。
理由は、個人投資家が決算書から追いやすいからです。

EV/EBITDAは便利ですが、企業価値の計算やリース負債、現金の扱いで迷いやすいです。
最初は、会社が稼いだ利益と現金、資本効率を丁寧に見るほうが、判断が崩れにくいと感じています。

PERは、入口です。
入口だけ見て、家の中を見ないまま契約しない。
投資でも同じです。

今、誰が売り、誰が買っているのかを少しだけ見る

低PER株が放置される時、売り手にはいくつかの理由があります。

ひとつは、機関投資家が成長率の鈍化を嫌っている場合です。
利益は出ている。
配当もある。
でも、来期の伸びが見えない。
この場合、PERは低くても、買い手が増えません。

もうひとつは、資本効率への不信です。
利益を出していても、余った資金をうまく使えない。
ROEやROICが低いままなら、投資家は「この会社に任せても価値が増えにくい」と見ます。

反対に、買い手が入るのは、低PERの理由が消え始めた時です。
EPS予想が上がる。
ROIC改善策が数字で出る。
フリーキャッシュフローが増え、自社株買いや増配の余力が見える。

ここは推測も混じります。
ただ、株価は「安い」だけでは動きません。
安い理由が薄れる時に動きます。

読者にとって大事なのは、誰かの買いを当てることではありません。
自分が買う前に、売られている理由を言葉にすることです。
理由が言えない安さは、まだ自分のものではありません。

明日スマホで最初に見るもの

PERは便利です。
でも、PERだけでは利益の質も、現金の残り方も、資本効率も分かりません。

この記事の核心は、これです。

低PERは答えではなく、質問です。

なぜ低いのか。
その利益は続くのか。
現金は残るのか。
資本をうまく使えているのか。
市場が嫌っている理由は消えそうなのか。

この問いに答えるために、PBR、ROE、ROIC、PEG、フリーキャッシュフロー利回りを使います。
どれか1つで正解を出すのではなく、PERの弱点を順番に埋めるために使います。

明日スマホで最初に見るものは、気になる銘柄の最新決算短信にあるキャッシュフローです。
営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引き、現金が残っているかを見てください。
PERが低い理由を、そこから考え直してください。

それだけで、買い急ぎはかなり減ります。

投資で怖いのは、知らないことそのものではありません。
分かったつもりで、大きく張ってしまうことです。

前提が変われば判断も変えます。
小さく入り、数字で確認し、違ったら軽くする。
それで十分です。

静かに残りましょう。
派手に勝つより、次の相場にも参加できることのほうが、長い目ではずっと強いです。

本記事は投資助言を目的としたものではありません。
記載内容は筆者個人の見解であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。
投資に関する最終判断はご自身の責任において行ってください。


項目内容
ポイント1
ポイント2PERが低い株を見つけた時ほど、手が早くなる
ポイント3PERが低いだけで心が軽くなる、その瞬間が危ない
ポイント45つの補完指標で、利益の顔つきを分けて見る
ポイント5安く買う前に、3つの場面を先に決めておく

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この記事を書いた人

「日本個別株デューデリジェンスセンター」運営者。日本の個別株に特化した投資リサーチを専門とし、銘柄分析・企業デューデリジェンス・業界動向・IPO分析を中心に2,800本超の分析レポートを執筆。ファンダメンタルズ分析とデータドリブンなアプローチで、個人投資家の意思決定をサポートしています。毎日更新の分析レポートを通じて、プロ水準のリサーチを個人投資家に届けることをミッションとしています。

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