なぜ日本の住宅価格は止まらないのか、残クレ誕生が映す構造問題と個人投資家が今すぐ見直すべき資産戦略

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この記事のポイント
  • 住宅価格は高い。でも、本当に怖いのはそこではなかった
  • 住宅ニュースに毎日心を揺さぶられなくていい
  • 止まらない価格の正体は、4つのダムが同時に決壊していること
  • 誰が今、この値段で家を買っているのか

価格の裏で静かに変わっているのは「借り方」です。どこを見て、何を捨てるか、一緒に整理しましょう。

住宅価格は高い。でも、本当に怖いのはそこではなかった

ある夜、モデルルームでもらった試算表を、もう一度眺めていました。

月々の返済額が、今の家賃よりわずかに安い。 でも、総支払額を電卓で叩き直すと、背中がひやっとする金額が出てきました。

「月々は下がっている。でも、返す総額は増えている」 数字が、そう言っていました。

マーケットアナリストマーケットアナリスト
市場環境が変わる局面では、これまでの成功体験がかえって足かせになることがあります。この記事のフレームワークを使って、自分の投資スタイルを定期的に点検してみてください。

住宅価格のニュースを見るたび、胃のあたりが重くなる感覚。 もう少しで手が届かない、でも踏み込むのも怖い。 この感覚は、私も同じでした。今でも時々、あの夜を思い出します。

おそらく、今この記事を開いているあなたも、同じような迷いの中にいるのだと思います。 「買えるうちに買うべきか」「いや、高すぎる気がする」「でもこれ以上待って大丈夫なのか」。

結論を急がずに、まず一つだけ共有させてください。 住宅価格が高いこと、それ自体は、実はこの記事のメインテーマではありません。

本当に怖いのは、その高い価格を「安く見せる仕組み」が、静かに広がっていることです。 2026年3月、住宅ローンに残価設定型、通称「残クレ住宅ローン」が登場しました。 自動車で使われてきた仕組みが、今、住宅にも入ってきたのです。

これは、単なる新商品の話ではありません。 「もう普通には売れなくなってきた」という構造問題の表れだと、私は見ています。

この記事では、まず価格上昇の正体を4つに分解します。 次に、残クレ住宅ローンが映し出している市場の姿を見ます。 そして最後に、個人投資家として、自分のバランスシートに「家」という巨大ポジションをどう乗せるか、撤退基準まで含めて渡します。

読み終えた時、あなたの判断軸が「買う・買わない」から「自分の生き方を背負えるか」に変わっていたら、この記事の役目は果たせたと思います。

住宅ニュースに毎日心を揺さぶられなくていい

住宅価格の情報は、とにかく多い。毎週のように新しい記事が流れてきます。 ただ、そのほとんどは、あなたの判断には要らないものです。

まず、無視していいノイズから整理します。

ひとつ目は、月次で発表される「新築マンション平均価格」の短期の上下です。 「今月は8千万円台に下落!」「翌月1億円に再上昇!」のような見出し。 これが誘発するのは、焦りと取り残される感覚です。 でも、月次平均は、その月にたまたま売り出された物件の構成で大きく振れます。 港区の超高級物件が一棟混ざるだけで、平均は跳ねます。 月ごとの数字に一喜一憂する必要は、本当にないと私は思っています。

ふたつ目は、SNSやインフルエンサーの「今が買い時」「もう買えなくなる」系のポスト。 誘発するのは、典型的なFOMO、つまり乗り遅れ恐怖です。 この種の発信は、発信者の立場と商売が絡みます。 不動産会社、ローン仲介、買い煽る系の投資家、それぞれにポジションがあります。 彼らの言葉を、自分の決断の根拠にしてはいけません。 過去、私もこの種の発信で焦って、一度痛い目に遭いました。その話はあとで書きます。

みっつ目は、「海外投資家が日本を買い漁っている」という煽り系のニュースです。 確かに、円安を背景に海外マネーは流入しています。 ただ、新築マンション全体に占める割合は、報道が誘発する印象ほど大きくありません。 「奪われる」という感情で判断を曇らせないことです。

次に、本当に見るべきシグナルを3つに絞ります。

ひとつ目は、住宅ローンの変動金利の水準です。 これは短期プライムレートに連動していて、日銀の政策金利が動くと連動します。 なぜ重要か。変動金利が上がると、同じ物件を同じ月々返済額で買える金額が減ります。 つまり、市場全体の購買力が減り、やがて価格に影響します。 確認は月1回、借りている銀行のサイトと、モゲチェックなどの比較サイトで十分です。

ふたつ目は、10年国債の利回りです。 これは住宅ローン固定金利のベースになる金利で、長期の見通しを映します。 日本経済新聞のマーケット欄やYahooファイナンスで、週1回確認できます。 2026年3月時点で2.2%前後まで上がっていて、一段と上がるかどうかが分岐点です。

みっつ目は、自分が買いたいエリアの中古の「実成約価格」です。 売り出し価格ではありません。実際に売れた価格です。 REINS Market Information、通称レインズの一般公開データで確認できます。 新築のニュースはノイズが多いですが、中古実成約は嘘をつきません。 月1回、自分のエリアの動きだけ見れば十分です。

この3つさえ押さえていれば、他のニュースは流して問題ありません。

止まらない価格の正体は、4つのダムが同時に決壊していること

ここから、事実と私の解釈、そして読者への示唆、という順で整理します。

まず事実から。

2025年、東京23区の新築分譲マンションの平均価格は1億3613万円でした。 23区平均で、です。平均で1億を超える市場は、過去に一度もありませんでした。 これは、もはや一般的な年収の世帯では買えない水準です。

日銀の政策金利は、2025年12月に0.75%へ引き上げられ、1995年9月以来30年ぶりの水準に達しました。 これに伴い、2026年4月1日時点の変動金利の適用金利は、ほぼ1%の大台に乗りました。 少し前まで「変動0.4%台」が当たり前だった世界は、もう過去のものです。

一方で、空き家率は令和7年公表の住宅・土地統計調査によれば、日本の空き家数は900万戸、空き家率は13.8%と過去最高を更新しています。 国全体では、家が余っているのです。 それなのに、都心部の新築マンションは1億を超える。 この矛盾こそ、今の住宅市場を読み解く出発点です。

そして、2026年3月には、残価設定型住宅ローン、通称「残クレ住宅ローン」が本格登場しました。 これは、あらかじめ将来の住宅の残価を定め、残価を除いた部分だけを元本返済する仕組みです。 月々の返済額は軽くなります。ただし、将来残価分をどうするかという問題は、先送りされます。

ここから、私の解釈です。

今、住宅価格を押し上げているのは、4つの構造要因が同時に効いている状態です。

ひとつ目は、円安による建築コストのインフレ。 鉄骨、アルミ、セメントといった建材は輸入依存が高く、円安は直撃します。

ふたつ目は、都心限定の、絶対的な供給不足。 再開発に関わる人手も資材も足りず、そもそも新規供給戸数が減っています。

みっつ目は、海外投資家の資金流入。 大手不動産サービス会社JLLは、2026年について日本の不動産マーケットを取り巻く環境は良好が続くと予測し、アジア太平洋で中国に投資しづらい状況の中、同地域では日本と豪州が選ばれる傾向を指摘しています。

よっつ目は、パワーカップルとペアローンによる購買力の拡張。 一人では買えない価格帯を、二人の与信で買う構図が、都心の需要を押し上げています。

4つのダムが、同時に決壊している。 どれかひとつが止まっても、他の3つが支える。だから価格はなかなか落ちない。 これが、今の市場の骨格だと私は見ています。

では、残クレ住宅ローンはこの構造のどこに位置するか。 私はこれを、「価格ではもう売れにくくなってきたので、借り方を工夫して月々負担を下げる仕組み」だと見ています。

自動車業界は、同じ道を10年以上前に通りました。 車両本体価格を下げるのではなく、残クレで月々負担を下げて売る。 すると、消費者は「同じ月払いでより上のグレード」を買うようになりました。 結果、車両価格は上がり続け、ローンは長期化し、保有の概念は「所有」から「利用」に変わっていきました。

自動車の場合、車は減価する資産だったので、残クレは一定の合理性を持ちました。 ただ、住宅はどうでしょうか。 土地は理論上減価しませんが、建物は減価します。そして人口減少で全体の需要は縮む。 野村総合研究所は、2033年には日本の空き家率が30%に達すると予測しています。 3戸に1戸が空き家、という世界です。

この前提で、「将来の残価を今、約束する」仕組みは、何を意味するのか。 残価を提示する側が、そのリスクを誰かに押し付けている可能性を、私は疑っています。

ここに、私の見立ての前提を置きます。 政策金利が1.5%を明確に超えない限り、都心の価格はしばらく崩れにくい。 ただし、変動金利が2%台に入った時、新規購買層のキャパが急減し、パワーカップルの家計が逆回転を始めます。 加えて、為替が1ドル120円台まで戻す局面では、海外マネーの投資妙味は一段下がります。

この前提が崩れたら、私は見立てを変えます。 特に、日銀が次の利上げに踏み切るタイミングは、私にとっての分岐点です。

読者の行動として、ここからお伝えしたいのは一つです。 「買うか、買わないか」で考えるのをやめることです。 かわりに、「自分のバランスシートに、家という巨大ポジションを乗せて平気か」で考える。 投資の世界では当たり前のこの視点が、不動産では抜けがちです。

誰が今、この値段で家を買っているのか

需給の話を、3段落だけします。

今、1億を超える都心マンションを買っているのは、主に4つの層です。 一つは、パワーカップル。夫婦合算の与信で、ペアローンを組む共働き世帯。 二つ目は、経営者や高所得専門職で、キャッシュまたは低LTVで買える層。 三つ目は、相続資金を持つ中高年層。 四つ目は、海外投資家。特に中国、台湾、香港、シンガポール、ASEAN圏。

共通しているのは、いずれも「平均的な実需層ではない」ことです。 平均的な年収の日本人が、平均的な住宅ローンで、平均的な都心マンションを買う。 この伝統的な図式は、すでに都心では成立しにくくなっています。

これが何を意味するか。 実需が抜けた市場は、上記4層の「買う理由」が消えると、急に買い手を失います。 パワーカップルは金利に弱い。経営者層は景気に弱い。相続資金は一巡する。海外投資家は為替に弱い。 どの層も、永遠の買い手ではないと私は見ています。 ただし、崩れるとしたら、都心ではなく、都心に追随して上がった郊外から先に始まる。これが私の現時点での読みです。

これから起こり得る3つの景色

ここから、シナリオ分岐を置きます。断言はしません。3つ用意して、自分がどこにいるかを判断する材料にしてください。

基本シナリオ:都心はじわり上昇、郊外地方は横這いか緩やかな下落

発生条件は、政策金利が1%台前半で頭打ち、かつ円安基調が大きく戻らない状態が続く場合です。 都心の需給ひっ迫は続き、価格はじりじり上昇。郊外・地方は実需の縮小で伸び悩む、または緩やかに下落する。

やること。買うなら都心の実需エリアに絞る。 借入は、世帯年収の5倍以内を目安にする。返済比率は手取りの25%以下。 現金は生活費の18か月分を別枠で確保する。

やらないこと。郊外のペアローン満額、複数の車と子どもを前提にした最大借入は、この環境では重すぎます。 「月々が払えるか」ではなく「全部払いながら生活と投資ができるか」で判断する。

見るもの。変動金利の水準と、自分のエリアの中古実成約価格。 住宅ローン控除の改正動向も、年1回チェックしてください。

逆風シナリオ:政策金利1.5%超え、円高加速

発生条件は、日銀が想定より速いペースで利上げし、同時に円高が進む局面。 これは、パワーカップルと海外投資家の両輪にブレーキがかかる状態です。 都心の価格も止まり、郊外は本格的に下がり始める可能性があります。

やること。買い急がない。手元現金を厚くする。 すでにローンを借りている人は、固定金利への借り換え試算をしておく。 完全変動のまま放置している場合、5年後に月々返済が急増する恐れがあります。

やらないこと。残クレ型の「月々が安いから」を理由にした購入は、この環境では危険です。 将来残価の見直しリスクが、逆風局面で顕在化しやすいからです。

見るもの。日銀の金融政策決定会合の声明、為替レート。 日銀会合は年8回、スケジュールは日銀公式サイトで確認できます。

様子見シナリオ:方向感が読めない

発生条件は、金利も為替もレンジで推移し、価格も膠着する局面。 正直に言うと、ここが最も長く続く可能性が高い、と私は見ています。 相場は、静かな時間のほうが長いのです。

やること。家計の住居費上限を、手取りの25%以下に抑える暮らしを維持する。 金融資産の積立は止めない。むしろ、家を買わない分、投資に回せる資金は厚くできるはず。 不動産はひとつの選択肢であって、唯一の資産形成手段ではありません。

やらないこと。不確定な情報で、大きなポジションを取る。 友人や親族の「買って良かった話」に引きずられない。彼らは、あなたと違う環境で、違うタイミングで買った人たちです。

見るもの。自分の家計の耐久力。 具体的には、手取りが10%下がっても、金利が1%上がっても、月々の生活が回るか。

私が狭いマンションを、無理めに買わなかった夜のこと

ここから少し、恥ずかしい話をします。

あれは、2019年の夏前だったと思います。 コロナ前、低金利が当たり前で、株も調子が良かった頃です。私は30代半ばで、将来への漠然とした焦りを抱えていました。

友人が「家買った」という報告を立て続けに3人からもらった時期でした。 SNSのタイムラインには、住宅購入の報告と、新居の写真が溢れていました。 「俺だけ取り残されてる」という感覚が、静かに積もっていました。

ある週末、近所にモデルルームが出来て、散歩ついでにふらっと入りました。 70平米の3LDK、最寄り駅から徒歩10分、築浅の中古とは違う、新築マンション。 提示された価格は、5,800万円。 当時の私の年収の10倍弱でした。

営業さんは感じが良くて、押しが強くない人でした。 逆に、それが効きました。 「変動金利0.475%、ペアローンで月々16万円ですね。今のご家賃より少し安くなります」 この一言で、頭の中のスイッチが入った音がしたのを、今でも覚えています。

申込書のサンプルを渡されて、持ち帰りました。 家に帰って、電卓を叩きました。 月々は確かに、安い。 でも、35年間で払う総額は、当然ながら物件価格より大きい。 ボーナス併用にすれば月々はさらに下がる、という提案もメモされていました。

No.主要トピック
1住宅価格は高い。でも、本当に怖いのはそこではなかった
2住宅ニュースに毎日心を揺さぶられなくていい
3止まらない価格の正体は、4つのダムが同時に決壊していること
4誰が今、この値段で家を買っているのか
5これから起こり得る3つの景色

その夜、妻と話しました。 妻は、冷静な人です。 「5年後、10年後、あなたの会社の給料は今と同じだと思う?」 そう聞かれました。 私は、何も答えられませんでした。正直に言うと、答えを考えたこともありませんでした。

眠れなかった夜、私は1枚の紙を書きました。 上のほうに、「買った場合」と書いて、月々返済、管理費、修繕積立、固定資産税、更新時の諸費用を書き出しました。 下のほうに、「買わない場合」と書いて、今の家賃と、貯金できる額の差を書き出しました。

買った場合の紙のほうには、書き終わった後、空いたスペースが一行だけありました。 そこに、こう書き足しました。 「金利が1.5%上がったら」。 手が止まりました。月々返済を計算し直すと、3万円ほど増えました。 「妻がフルタイムを続けられなかったら」。 ペアローンの前提が崩れると、これは詰みました。

結局、買いませんでした。 あの時、買わなかったことを後悔したのは、正直、あります。 コロナ後に同じエリアの相場が上がっていくのを見た時、自分の判断を何度も疑いました。 「あの時買っておけば、今頃2千万円の含み益があったのに」と計算して、自分を責めた夜もありました。

でも、2022年、私の会社は一度大規模な再編がありました。 年収が一時的に下がりました。 同時期、子どもの教育費が想定より膨らむフェーズに入りました。 もし、あの時ペアローンを組んでいたら、私は何かを諦めなければならない局面に入っていたはずです。 投資か、教育か、老後資金か、家族で行く旅行か。どれか一つ、あるいは複数を。

今でも、あの夜書いた紙のことを思い出すと、胃の奥がざらっとします。 買わなくて良かった、という結論に着地できた自分と、買いそうになって震えた自分と、両方の記憶が混ざって残っています。

何が学びだったか。 「月々の返済を払えるか」ではなく、「返済を払いながら、人生の他のことを全部続けられるか」を問うべきだった。 この視点が、当時の私には決定的に欠けていました。 営業の試算表が見せるのは、前者だけです。後者は、自分で考えるしかない。

だから今、私は3つのルールを持っています。ここから先がM6の実践の話です。 あの夜から派生した、私の家計運営のルールです。

家という巨大ポジションの、正しい背負い方

抽象論は書きません。全部、数字のレンジで出します。 これは、あの夜の失敗から生まれた、私自身の運用ルールです。

資金配分のレンジ

住居費は、手取りの20〜25%を目安にしています。上限でも28%です。 ここで言う住居費は、ローン返済だけではありません。 管理費、修繕積立金、固定資産税の月割り、保険料、町内会費まで全部入れた金額です。 多くの試算表は、ここを過小に見積もります。

金利環境で調整幅も持たせています。 金利が今のように上昇トレンドの時は、20〜22%寄り。 金利が明確に下がる局面では、25〜28%寄りでもよい、と考えています。 今は、手取りの22%までしか住居費を使わない、というのが私の自分ルールです。

総資産に対する不動産の比率も意識しています。 自宅を含む不動産が、総資産の80%を超えないようにしています。 ここでの総資産は、金融資産プラス不動産の時価評価です。 80%を超えると、資産が一つの資産クラスに集中しすぎていて、何かあった時に動けなくなります。

現金は、生活費18〜24か月分。 これはローンを継続させるための安全マージンです。 「投資に回したほうが効率が良い」という声もあります。 でも、住宅ローンという固定費を抱えている状態では、現金の厚みこそが一番の味方になります。

建て方

金利タイプを、全部変動にはしません。 一部固定、一部変動のミックスにします。 理由は単純で、一括で入ると、金利上昇時に身動きが取れなくなるからです。 これは投資の分割エントリーと同じ考え方です。

繰上返済の判断は、「ローン金利」と「代替投資の期待リターン」を比べます。 変動1%のローンを繰上げるか、その資金を年率4%期待のインデックスに入れるか。 数字だけで見れば後者ですが、家計の心理的安定を優先する判断もあり得ます。 正直、ここは私も毎年迷います。

ペアローンは、原則回避が私のルールです。 どうしても使う場合は、団信と連帯保証の意味を2人とも完全に理解してから、が条件です。 離婚、死別、健康問題、どれが起きても片方では返せない設計は、ポジションサイズが大きすぎる状態と同じです。

撤退基準、3点セット

これは、住宅を買う前に、必ず書いておく基準です。

価格基準。 自分のエリアの中古実成約価格の平均が、直近ピークから15%下落したら、保有方針を再評価します。 「売る」ではなく「再評価する」です。 その時点の家計、金利、収入環境と合わせて、継続保有か売却かを決めます。 一律で売るのではなく、前提と突き合わせる判断にしています。

時間基準。 ローン組んで5年経ったら、強制的に見直しをします。 金利環境、自分の収入、家族構成、健康状態、どれかが大きく想定と違うなら、借り換えまたは売却を検討します。 5年というのは、大きな金利サイクルが一巡する時間軸だからです。

前提基準。 これが一番強い基準です。 M3で置いた前提、つまり「変動金利2%超え」または「手取りの30%を返済に使っている状態」になったら、即座に立ち止まります。 この数字に到達した時点で、他の選択肢を全部テーブルに乗せます。売却、借り換え、繰上返済、ローン条件の変更、あらゆる手段を。

残クレ住宅ローンに関する、私の立場

ここで、残クレ型についても触れておきます。 私は、残クレ住宅ローンを全否定はしません。 2026年3月に登場した残価設定型住宅ローンは、ローン設定時にあらかじめ残価を定め、不動産価格から残価を差し引いた部分について元利返済を行い、元利返済後は残価部分の利払いのみを継続する仕組みです。 特定の状況、たとえば数年以内に住み替え予定がある、長期優良住宅を一定期間だけ使う、といったケースでは、選択肢になり得ます。

ただし、「月々が安くなるから買える」という理由で選ぶなら、私は止めます。 それは、価格の高さを借り方の工夫で覆い隠しているだけで、リスクは消えていません。 残価を下回る売却価格になった時、手元には何も残りません。 これは、ローン設計上の免責があっても、投資家としてはポジションを失った状態と同じです。

初心者への救命具

ここは、迷っている人に必ず渡したい一文です。

判断に迷ったら、物件価格を7割に想像してみてください。 その価格なら、無理なく返せるか、自問してみてください。 余裕で返せるなら、今の価格で買っても家計は壊れません。 「7割なら余裕、でも9割だと厳しい」と感じるなら、あなたはまだ買うべきタイミングではありません。 迷いは、市場からのサインです。

もうひとつ。 すでにローンを組んでいる人は、今日、一度だけ試算してみてください。 月々の返済額が1.5倍になった時、家計が回るか。 これは、変動金利が2%台に入ると、実際に起こり得る数字です。 回らないなら、今のうちに打てる手があります。固定化、借り換え、繰上、売却、どれも検討の余地があります。

ここで一度、自分に問い直す質問

3つだけ、静かに答えてみてください。 答えられなかったこと自体が、気づきになります。

  • あなたの今の住居費は、手取り月収の何パーセントですか。

  • 金利が1%上がって、収入が1割下がった時、家計は何か月耐えられますか。

  • あなたが買おうとしている物件の価格が7割になった時、「買って良かった」と思える自分でいられますか。

住宅を背負う前の8項目チェックリスト

保存して、物件見学の前に一度見返してください。 Yes/Noで答えられる形にしています。

  • 物件価格は、世帯年収の5倍以内に収まっていますか。

  • 住居費総額は、手取りの25%以下に収まっていますか。

    投資リサーチャー投資リサーチャー
    投資に関する書籍は数多くありますが、大切なのは読むだけで終わらず、学んだ知識を実際の銘柄分析に適用してみることです。1冊でも実践に結びつけば、それは大きな進歩です。
  • 頭金以外に、生活費18か月分以上の現金がありますか。

  • 金利が1.5%上がった場合の月々返済を、計算しましたか。

  • ペアローンなら、片方の収入が途絶えた場合でも耐える設計になっていますか。

  • 売却時の想定価格を、中古実成約データで確認しましたか。

  • 10年後、20年後に同じ場所に住み続けたいと感じていますか。

  • 買わない選択肢を、真剣に検討しましたか。

全部Yesなら、買って問題ない可能性が高いと私は見ています。 ひとつでもNoがあるなら、もう一度立ち止まってもいい。

私が自分に課しているミス防止ルール

  • モデルルームでは、当日に契約書類にサインしない。持ち帰って1週間以上考える。

  • 営業が提示する試算は、金利と年収の前提を必ず自分で変えて再計算する。

  • 家族または信頼できる第三者に、試算表を一度見せる。

  • 「今買わないと」という言葉を聞いたら、一度席を立つ。

「今買わないと、もっと高くなる」と言われた時

この反論、よく聞きます。私自身、あの2019年の夜に、自分の中で何度も唱えた言葉です。 だから、否定しません。その指摘はもっともです。

確かに、都心の一等地は、この先さらに上がる可能性があります。 円安、海外マネー、パワーカップル、供給不足、4つのダムの水位が下がる気配は今のところありません。

ただし、ここで問い返したいことがあります。

あなたが「今買わないと」と思っている物件は、あなたの家計で無理なく返せる価格帯にありますか。 買えるエリアが、都心の実需のど真ん中なら、その指摘は正しい可能性が高い。上昇の恩恵を受けられる物件です。

でも、「買える予算で探した郊外の駅近物件」だったら、話が変わります。 郊外は、人口減少と供給過多の影響を先に受けやすいエリアです。 都心が上がるロジックと、郊外が上がるロジックは、同じではありません。 都心が上がっても、郊外がついていくとは限らないのです。

もうひとつ。 「今買わないとローンが組めなくなる」という発想も、立ち止まる価値があります。 年齢による借入可能期間の制約は確かにあります。 でも、借りられる最大額と、払い続けられる適正額は、別物です。 35年ローンで借りられるからといって、35年払い続けられる保証はどこにもありません。

整理すると、こうなります。 都心実需エリアに、家計の範囲内で買えるなら、「今買わない」リスクのほうが大きい場合があります。 一方で、予算の上限を踏んで郊外を無理めに買うなら、「今買う」リスクのほうが大きい。 反論への答えは、条件分岐でしか出せないのです。

私はこう考えています。 住宅の買い時は、市場のタイミングで決めるものではなく、自分の人生のタイミングで決めるもの。 子どもの学区、通勤、家族の人生設計、これらが揃った時が、あなたの買い時です。 市場が上がるから買う、は、個人投資家としては筋が悪い判断だと思っています。

スマホを開いて、明日まず見る1つのこと

長くなりました。最後に3つだけ持ち帰ってください。

ひとつ。 住宅価格は、需要ではなく「借り方の工夫」で支えられる段階に入りました。 残クレ住宅ローンは、価格高騰を延命させる仕組みであって、あなたを救う仕組みではありません。 仕組みが進化した時は、いつも「普通には売れなくなった」のサインです。

ふたつ。 家計の耐久力は、「月々の返済が払えるか」ではなく、「5年後に金利が上がり、収入が下がっても耐えられるか」で測るものです。 月々試算表は、あなたを騙すためにあるわけではありません。ただ、あなたの人生の複雑さを織り込んではいないのです。

みっつ。 家を買う・買わないの前に、自分のバランスシートに巨大ポジションを乗せる覚悟があるかを問う。 金融資産と不動産は、両方を持って初めて、どちらかが不調でも家計が生き残ります。

明日、スマホを開いたらまず一つだけ見てください。 REINS Market Informationで、自分が住みたいエリアの、直近1年の中古マンション実成約価格。 売り出し価格ではありません。実際に売れた価格です。 これが、あなたの個人的なマーケットの体温計になります。

住宅は、人生最大の買い物だとよく言われます。 でも私は、人生最大の「ポジション」だと思っています。 ポジションには、必ず入り方と、撤退基準と、適正サイズがある。 これを忘れて、買うか買わないかだけで迷うのは、もったいないです。

最後に、あの2019年の夜の自分に、今の私が声をかけるなら、こう言います。

「買わなかったあなたは、間違っていなかった。でも、買ったあなたも、間違ってはいなかったかもしれない。 大切なのは、買った後も、買わなかった後も、自分の生き方を続けられる設計だったかどうかだ」

家は、背負うものです。でも、家のために生きるものではないはずです。 その順番さえ忘れなければ、この相場でも、あなたは生き残れると私は思っています。

本記事は投資助言を目的としたものではありません。 記載された内容は筆者個人の見解であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。 投資に関する最終判断は、ご自身の責任において行ってください。


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この記事を書いた人

「日本個別株デューデリジェンスセンター」運営者。日本の個別株に特化した投資リサーチを専門とし、銘柄分析・企業デューデリジェンス・業界動向・IPO分析を中心に2,800本超の分析レポートを執筆。ファンダメンタルズ分析とデータドリブンなアプローチで、個人投資家の意思決定をサポートしています。毎日更新の分析レポートを通じて、プロ水準のリサーチを個人投資家に届けることをミッションとしています。

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